バンクシーが公式個展「CUT&RUN」を、スコットランド・グラスゴーにある現代美術館「Gallery of Modern Art(GoMA)」で6月15日〜8月28日まで開催している。
2009年以来、14年ぶりのバンクシー個展の副題は「25年間のカード労働(25 years card labour)」。すばやく描くために、ステンシルという技法を採用しているバンクシー。そのステンシルに焦点を当てた公式個展は成功すれば、今後各地で巡回開催される可能性もあるという。その展示作品やメッセージを見ていこう。
バンクシー公式個展「CUT&RUN」のテーマ
バンクシー公式個展「CUT&RUN」のテーマは「1998年〜2023年までのステンシルの展示(An exhibition of stencils from 1998-2023)」。副題の「25年間のカード労働」にもあるように、切り抜き、スプレーして走った25年間のステンシル活動の裏側も見れる展覧会になっている。
「ほとんどのアーティストは、自分の作品を定義づける強迫観念を持っています。モネには光があり、ホックニーには色があり、私には警察の対応時間があります。」 |
グラスゴー市内中心部「GoMA」の壁には、こんなバンクシーのメッセージが書かれている。
なぜ、バンクシーは開催場所をGoMAにしたのか?
バンクシーが開催場所をGoMAにした理由は、イギリスで一番好きな芸術作品があるから。
2005年のバンクシー公式作品集「Wall and Piece」にも写真が掲載されている芸術作品は、GoMAの正面にある「ウェリントン公爵の騎馬像」の上に常に置かれているトラフィックコーンのことを指す。通称「Conehead(世間知らずの愚か者)」と呼ばれる帽子は、市議会と警察の最善の努力にもかかわらず、コーンが撤去されるたびに別のコーンが設置してきたグラスゴー市民による芸術作品である。
「これはばかげていて大げさだと聞こえるかもしれませんが(展覧会の残りの部分を見るまで待ってください)、これはイギリスで私のお気に入りの芸術作品であり、私がここで展覧会を開催する理由です。」 |
グラスゴーの40年以上にわたる非公式の伝統で、グラスゴーの反逆精神の象徴となっているConehead。ナポレオンを破った国民的英雄で英国首相という体制の上に、民主主義と反乱主義の意味を重ね合わせている。まさに、バンクシー作品の到達点である。
バンクシー公式個展「CUT&RUN」を入るとそこには、「ようこそ。少なくとも、今日あなたは 1 つの傑作を見ることになるでしょう – あなたはちょうどその横を通り過ぎただけです。」と書かれている。
バンクシーから公式個展へのメッセージ
公式個展「CUT&RUN」について、バンクシーは次のように述べている。
「私はこれらのステンシルが損害賠償請求の証拠として使われる可能性があるかもしれないと思い、何年も隠し続けてきました。でも、その時は過ぎてしまったようで、今回はアート作品としてギャラリーに展示する。どちらの罪が重いのかは分かりません」 “I’ve kept these stencils hidden away for years, mindful they could be used as evidence in a charge of criminal damage. But that moment seems to have passed, so now I’m exhibiting them in a gallery as works of art. I’m not sure which is the greater crime” |
バンクシー作品は、壁などに無断で描かれていることが多い。作品の型であるステンシルを公開すると、自分が描いたことを認めることになる。そのため、これまではステンシルを公開してこなかったバンクシー。今回の個展で、制作の舞台裏まで明らかにしている。
バンクシー公式個展「CUT&RUN」の展示作品
バンクシー公式個展「CUT&RUN」は、オリジナルのスケッチや、作品に新たな命を吹き込むために描かれたステンシルを展示し、バンクシー作品がどのように作られるかという舞台裏のプロセスをすべて明らかにすることを目的としている。
「Love is in the Bin」シュレッダー事件の種明かし
注目を集めているのが、2018年10月に競売で落札された直後、シュレッダーで細断された作品「Love is in the Bin」の種明かしだ。分解された額縁が展示され、モーターやコードがどのように配置されていたかなど額縁内部の仕組みを説明している。
「逆立ちの女子体操選手」Borodyanka, Ukraine
壁から30cmほど離れたところに吊るされたステンシルが、幻惑的な光に照らされ壁に光と影を形成するような仕組みもある。これまでは、街中にスプレーで作品を残してきたが、室内に光で作品を魅せる手法も取り入れている。
ユニオンフラッグのスタブベスト
ストームジーが2019年にグラストンベリーでヘッドライナーを務めた際に着用したユニオンフラッグのスタブベストや、イスラエル兵士とパレスチナ国民の間の枕投げなど、これまでヨルダン川西岸のベツレヘムでしか見られなかった作品などが含まれる。
撮影禁止
バンクシー公式個展「CUT&RUN」では、ネタバレを防ぐためにスマホは会場に入る前に預ける必要がある。中での記念写真は、会場にいるスタッフがインスタントカメラで撮ってくれる。
バンクシー公式個展「CUT&RUN」のガイドツアー動画
バンクシー公式個展「CUT&RUN」に寄せられたメッセージ
GoMA美術館マネージャーのギャレス・ジェームス氏は展覧会について次のように語った。
「GoMAは、社会正義を擁護し、リスクを負い、革新的な実践を活用するアーティストをほぼ30年にわたって歓迎してきました。この展示会の開催はGoMAと市にとって完璧に適合しています。これは今後何年にもわたって人々に語り継がれる展覧会であり、その範囲、洞察、破壊性を評価するために繰り返し訪問する価値があるでしょう。」 |
グラスゴー市議会議長のスーザン・エイトケン議員は次のように付け加えた。
「ストリートアートはグラスゴーの特徴の1つとなっており、バンクシーほどストリートアートを文化、政治、社会の中心に据えた人物はいません。バンクシーが作品の開催地としてグラスゴーを選んだことを嬉しく思います。この展示会は大きな興奮と需要を生み出すことになるので、この夏、さらに多くの来場者をグラスゴーとスコットランドに迎えることを楽しみにしています。このユニークな展覧会を楽しむために訪問を計画している場合は、グラスゴーの市内各地にある素晴らしい壁画やその他の世界クラスの文化を鑑賞する機会をぜひご利用ください。」 |
”偽物”バンクシー展への声明
バンクシーの新しい展覧会の発表では、「近年、無許可の世界的な展覧会の数々に悩まされている」と述べられており、完全に無許可のバンクシー・アートなどのイベントにこう言及している。
「無許可のバンクシーのショーは私のスタジオの床を掃除したように見えるかもしれませんが、CUT&RUNは実際に私のスタジオの床を掃除したものです」
本人非公認の「ザ・アート・オブ・バンクシー」は、オリジナルで認証されたバンクシー作品の世界最大のコレクションと称し、世界中で150万人の来場者がいると発表している。日本に巡回はこないが、本物のバンクシー展はどれくらい来場者を集めるのかも注目のポイントだ。
バンクシー公式個展「CUT&RUN」の概要
会期 | 2023年6月15日〜8月28日 |
URL | https://cutandrun.co.uk/ |
会場 | Gallery of Modern Art(GoMA) |
開館時間 | 日曜~木曜 9:00〜23:00 金曜・土曜 9:00〜翌5:00 |
休館日 | 月曜 |
料金 | 一般 15ポンド 学生 10ポンド 子供 5ポンド |