バンクシーが、英時間3月18日11:20ごろに、自身の公式Instagramとウェブサイトを通じて最新作『tree/天然の木』を公開しました。
2024年最新作『tree/天然の木』は、枝が切り落とされた枯れ木の後ろにある外壁に、緑色のペンキを吹き付けた作品です。葉のように見えるペンキの隣には、圧力ホースを持つ人物のステンシルが描かれています。
この作品は、3月17日(日)の朝に近隣住民に発見され、バンクシーの作品ではないかと話題になっていました。
まるで、日本昔ばなしの「花咲か爺さん」のような物語がありそうな作品。
この作品には、どのような意味があるのでしょうか?
バンクシー2024最新作『tree/天然の木』の意味
バンクシー2024年の最新作『tree/天然の木』の意味は、都市部の環境破壊への警告です。
フィンズベリー・パーク近くに描いた作品は、都市部の環境破壊について問題提起をしており、ネットゼロに呼応や森林伐採、美術館を標的にする環境活動家への皮肉というメッセージと解釈できます。
バンクシー2024最新作の解釈①ネットゼロに呼応
バンクシー最新作『tree/天然の木』に使用されているペンキは、イズリントン評議会の標識と全く同じ「緑色」が採用されています。
イズリントン評議会は、長年にわたって「気候非常事態」を宣言してきました。
バンクシーが採用した「緑色」は、イズリントン評議会が掲げる、2030年までにネットゼロ(カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出正味ゼロ)の実現という公約に呼応していると考えられます。
また、緑色のペンキは、ステンシルの人物が持っているように、消火器のような圧力ホースで塗られたのではないかと推測されます。バンクシーは、二酸化炭素を発生させ、温室効果を加速させる「炎」を鎮火させるというメッセージを込めて作品を描いたのではないでしょうか。
バンクシー2024最新作の解釈②フィンズベリー・パーク
バンクシーの最新作『tree/天然の木』は、緑豊かな公園「フィンズベリー・パーク」の近くに描かれました。
英国の首都ロンドン・イズリントン区にある「フィンズベリーパーク」は、ホーンジー・ウッドと呼ばれる広大な森林地帯の一部で、中世に放牧地として使用するため森林が伐採されたという過去があります。
また、第一次世界大戦中は、平和主義者の集会の場として知られていた公園も、第二次世界大戦中には、軍事訓練場として使用され、20世紀後半を通じて、公園は荒廃し当初の特徴が失われていきました。
その後、2010年代までは、数多くのライブフェスティバルが開催された公園でもありました。
しかし2010年代以降は、公園の損傷や禿げた芝生、地方自治体の財政逼迫などの問題もあり、ライブフェスティバルの数は減少していきます。また、ライブフェスティバルの開催中、地元住民は公園や周辺の通りへの立ち入り禁止によって、不便を強いられるという問題などもありました。
バンクシーは、都市部の生活と環境破壊という文脈が残る場所に、最新作『tree/天然の木』を残したのです。
バンクシー2024最新作の解釈③美術館を標的にする環境活動家への皮肉
2022年10月14日、ロンドンのナショナル・ギャラリーに展示されていたヴァン・ゴッホの『ひまわり』に対する攻撃を皮切りに「ジャスト・ストップ・オイル(Just Stop Oil)」をはじめとする環境活動家による美術館や文化施設を標的にした抗議活動が世界各地で相次ぎました。
「ジャスト・ストップ・オイル(Just Stop Oil)」の2人は、気候危機の問題をめぐって社会に変化をもたらすための抵抗運動を目的に「持続可能な食料のための社会保障を求めるすべての人に有益な運動の始まり」と主張しました。
同じ気候危機への警告というメッセージながら、美術館などのホワイトキューブとは距離を置くバンクシーは、美術館の絵画を標的にする環境活動家とは一線を画す「Non-violent Direct Action(非暴力的直接行動)」でのスタンスを表明するために、消火器のような圧力ホースで壁画を残したのではないでしょうか。
バンクシー2024最新作の場所
バンクシー2024年の最新作『tree/天然の木』が描かれた場所は、ロンドン北部ペッカムの「ホーンジー・ロード」にある建物の白い外壁でした。
バンクシー2024年最新作の場所は、Hornsey Rd, Finsbury Park, London N19 4HS イギリス |
ホーンジーは、イングランド北ロンドンにある地区です。大部分が住宅地ですが、西には都市の中の小さな天然林「クイーンズ・ウッド」、北にはかつてのイギリス女王の宮殿がある「アレクサンドラ・パーク」に隣接しています。
また、現在では暗渠化されたモーゼル川の渓谷もある地区です。
暗渠(読み方:あんきょう)とは、都市を流れる見えない川のことを指しており、水が見えない、地下に埋められてしまった、あるいは蓋をされてしまった川を意味します。
モーゼル川(River Moselle)は、19世紀まで川全体が地上に残っていましたが、深刻な洪水の脅威となっていたため1836年にトッテナム・ハイロードとホワイト・ハートレーンの周囲が覆われました。1906年以降には、さらに大規模な暗渠化が行われ、現在では完全に覆われています。
バンクシー2024最新作について近隣住民の反応
バンクシーが『tree/天然の木』を残したアパートの住人と思われる男性は、「バンクシーが一晩でやって来たので、私の家賃は急騰するでしょう」とXに投稿しました。
Banksy came overnight and now my rent will skyrocket 🙃 pic.twitter.com/SCafkFw2ww
— James (@jamestroe) March 17, 2024
2024年、日本でバンクシーが見れる展覧会
テレビ朝日開局65周年記念『MUCA展(読み方:ムカ) ICONS of Urban Art ~バンクシーからカウズまで~』が大分、京都を巡回し、2024年3月15日(金)~6月2日(日)まで東京・森アーツセンターギャラリーにて開催されています。
2018年10月5日にバンクシーの代表作「Girl with Balloon(風船と少女)」が、オークション中にシュレッダー付きの額縁によって裁断された介入芸術作品の1つ「愛はゴミ箱の中に(Love is in the Bin)」も見れる展覧会に展示されているバンクシー作品を解説しているので、こちらもぜひご覧ください。