バンクシーが、ニューヨークで開催した「Better Out Than In」の22日目。
2013年10月22日に公開したのが、スフィンクスの彫刻「Everything but the kitchen sphinx」です。
kitchen sphinxの意味は、一切合切
2013年10月22日(火)クイーンズ区に登場した「Everything but the kitchen sphinx」。
「everything but the kitchen sink」は、直訳すると「(移動させるのが困難な)流し台以外は全部」となります。動かせるものは全部ということから、「一切合切」「ありとあらゆる物」を意味します。
バンクシーは、”sink” を “sphinx” に置き換え、流し台のように移動が困難なスフィンクスを表現しました。
そして、ウェブサイトで、街の名前「Queens」とともに、このような謎のメッセージを掲載しました。
孤立無援。ギザの大スフィンクスの1/36スケールのレプリカで、砕いたコンクリートブロックから作られています。レプリカのアラブの湧き水は、飲まないでくださいということですね。
No turn unstoned. A 1/36 scale replica of the great Sphinx of Giza made from smashed cinderblocks.You’re advised not to drink the replica Arab spring water.
エジプトのナイル川の西岸にある「ギザの大スフィンクス」の1/36 スケールで、破壊されたコンクリートブロックから作られた「kitchen sphinx」。
長さ約200cm・高さ50cmで作られた世界最古のモニュメントは、何千年にもわたる侵食によって頭蓋骨の顔になっており不気味な雰囲気を醸し出しています。
「文明と文化の象徴」の顔を模倣した彫像は、水たまりに置かれ孤立無援で、偉大さを失っています。同時に、朽ちかけた燃えがらで作られたスフィンクスは、都市の残骸から成長する偉大さを示しています。
kitchen sphinxのメッセージとは?
「kitchen sphinx」で注目すべきは、ファラオのあご髭を再現していることです。大スフィンクスの象徴的な細長いライオンの体が除外され、代わりにあごに焦点を当てているように見えます。エジプトの考古学者は1992年の論文で、大スフィンクスがあご髭を付けていたと発表しました。
あご髭は、古くに破損したと言われており破片は、カイロ博物館に3つ、大英博物館に1つ保存されています。エジプト側は返還を求めていますが、イギリス政府は断固として拒否しています。
そして、この作品が、文化財返還問題へのメッセージだとわかります。
文化財返還問題とは、合法・違法問わず売買や窃盗などで外国に渡った文化財を、その原産国・所有権を持つ国が返還や譲渡を要求することに関わる問題です。
2009年、エジプト考古最高評議会のザヒ・ハワス事務局長は、古代エジプト文字の解読のカギとなったロゼッタストーンをエジプトに返還するよう、大英博物館に要求しました。
紀元前196年のものとされるロゼッタストーンは、1799年にナポレオンの遠征軍が発見し、1801年に英国軍がフランス軍を破ったことから、英国の手に渡りました。
大英博物館側は、博物館としての目的を果たすために収蔵品の一部を失うことはできないと説明し、今なおエジプト側の返還要求は続いています。
返還を求める嘆願書には、このように書かれています。
歴史を変えることはできないが、過ちを正すことはできる。大英帝国によるエジプトの政治的、軍事的支配は何十年も前に終わっているが、文化的な植民地支配はまだ終わっていない。
エジプトは、2010年までに5000件の文化財返還に成功してきました。しかし、違法かつ倫理に反して持ち出されたロゼッタストーンと古代エジプトの文化財16点の返還がまだ完了していません。
バンクシーは作品を通して、流し台のように移動が困難なスフィンクスのように、”一切合切” もとの場所にあるべきとメッセージを送ったのでした。
しかし、このスフィンクスは動かされてしまいます。
動いたスフィンクス
10月22日の朝、「kitchen sphinx」を見つけた2人のヒップスターは、作品が自分のものであると宣言し、彫刻の隣にローンチェアを置きました。そして、作品のコンクリート・ブロックを、約100ドルで販売しました。
その後、近くの自動車ガラス店のオーナーであるベルナルド・ベレスは、作品をトラックに積み込み持ち去ろうとしました。
映像は、約20人のファンが、落胆した様子を映しています。
ニューヨークで作品が描かれた場所
バンクシー・ダズ・ニューヨークの22日目は、Queens(クイーンズ区)のウィレッツ・ポイントの作業場に登場しました。
人類文明の産物「大スフィンクス」は、エジプトに進行したナポレオン軍による大砲の射撃演習によって破壊された。という説が長年まことしやかに囁かれていましたが、権力や、破壊行為、そして人類の最善の努力が絡み合った良い例です。
この作品の運命は、HBOドキュメンタリー映画「Banksy Does New York」で大きく取り上げられました。 作品は元の場所から持ち出され、ガレージに保管され、のちにアート・マイアミ・ニューヨークの現代アートフェアに登場します。
バンクシー作品を購入する人は、現れるのでしょうか?