バンクシーが、ニューヨークで開催した「Better Out Than In」の21日目。
2013年10月21日に公開したのが、灰色の壁に落書きをしている少年と、仕える執事を描いた「Ghetto 4 Life（ゲットー・フォー・ライフ）」です。
Ghetto 4 Lifeの意味は、貧困街での生活
2013年10月21日（月）South Bronx（サウス・ブロンクス地区）に登場した「Ghetto 4 Life」。
このステンシル・アートは、バンクシーの特徴が良く表れた作品です。複雑に切り抜いた型の上から白黒のスプレーで吹き付けられた少年と執事は、陰陽がはっきりとしており立体的に見えます。そして、少年が落書きしたようなグラフィティは、鋭い社会的論評を加える言葉になっています。
「Ghetto 4 Life」の意味は、貧困街での生活です。この作品の印象的な部分は、少年の服装です。ゲットーに住む少年とは思えないような服装で、しかも執事が仕えており、紅茶のようにスプレー缶を出しています。
そして、他のどの落書きよりも「Ghetto（ゲットー）」という言葉をめぐる活発な論争に火をつけました。
ニューヨークで作品が描かれた場所
バンクシーの作品はストリートに描かれるため、常に場所がメッセージの大きな部分を占めています。バンクシー・ダズ・ニューヨークの21日目は、ブロンクス区の南西部に位置する「サウス・ブロンクス地区」に現れ、地元の住民から強い怒りを引き起こしました。
サウス・ブロンクスに住む人々や働く人々は、自分たちの住む地域を「Ghetto（ゲットー）」と呼ぶことがありますが、ブロンクスにルーツを持たない白人アーティストからこの言葉を聞くのは、好ましくないという人が多かったようです。
この地域の芸術振興組織「ブロンクス・アート・エクスチェンジ」のディレクター「ジェフリー・ガード」はこのように話しています。
バンクシーのような白人の億万長者のイギリス人が『ゲットー』と言うと、有色人種を連想させるため攻撃的に聞こえる可能性があります。文脈によって意味が変わるのだから、言葉の選択にもっと注意すべきでした。
When a white, billionaire British person like Banksy says ‘ghetto,’ it can sound offensive because it is associated with people of color, so he should have been more careful with the choice of words because the context changes the meaning.
多くの住民が怒りをあらわにする中で、バンクシーの活動を支持する人もいました。
バンクシーの「Ghetto 4 Life」を支持する人々
ハンツ・ポイントを拠点に壁画運動家として活動するグループ「Tats Cru」のメンバーであるHowは、このように語っています。
全体的に素晴らしい作品だと思う。この作品は、いわゆる「マイノリティ」地域の生活に注意を喚起する、力強く、批判的で、かつ風刺的なテイクである。バンクシーはスマートに挑発するので、フォロワーの間で対話が生まれます。
しばらく壁画を見つめていた大学生のジャスティン・ダペナは、このように語っています。
外国人が地元の人とは違う方法で現実を見ることもあるのだと思った。バンクシーはここに来て、ゲットーを見たんだ。なぜ大騒ぎをするのか？彼のアートが「真実」であるとは限らない。彼が見たことが「真実」であり、だからこそ私はこの作品が好きなのです。
集まった高校生のロビンソンたちは、作品を見ながらこのように語りました。
自分たちは「ゲットー」に住んでいるが、バンクシーの描いたゲットーとは違う。白人は「ゲットー」を下級犯罪者のいる汚い場所だと思っている。しかし、私にとってゲットーは私の家だ。それはネガティブなものではなく、私たちの存在の一部なのです。
ブロンクス区長のルーベン・ディアスJr.
ルーベン・ディアス・ジュニアは、ブロンクス区についてこのように語っています。
ブロンクス区は、多様なコミュニティの活気に満ちた区です。人々がアメリカン・ドリームを生きている区です。140万人の人々にとって故郷の区です。
声明全文は、次のとおりです。
先週、バンクシーがロナルド・マクドナルド像の巡回で、ブロンクス区に初めて登場しました。私は、「ブロンクス区が展覧会の一部となり、世界的な大きなニュースから取り残されることがなくてよかった」と、インタビューで答えました。
バンクシー作品を求めてやってくる訪問者に、ブロンクス区が大きく発展したことをアピールするチャンスです。実際、私はシャーロット・ストリートの歴史について、来たことがなかった何人かの人たちと話し、かつて都市の荒廃の象徴であった地域が、今では持ち家とコミュニティ精神のモデルになっていることを伝えることができました。
私は、ブロンクス区の継続的な成長、「ニューブロンクス」を紹介することができたのです。
私たちが「ニューブロンクス」をあらゆる場面で紹介している大きな理由は、ブロンクスが何十年にもわたって強いられてきた破壊的なステレオタイプやイメージを打破するためです。私たちは1970年代から、不当で、往々にして真実ではない物語に反撃してきましたが、一部の人々は、私たちの成長と向上がどれほど明白であっても、それを評価しようとはしないようです。
私たちの自治区は大きな飛躍を遂げました。犯罪は減少しています。新しいビジネスがブロンクスに入ってきている。私はどこに行っても、ブロンクスの人々から、ここに住んでいることを誇りに思う、この地区がこれまで見てきた、そしてこれからも見続けるルネッサンスを誇りに思う、という言葉を聞きます。
そして、バンクシーがブロンクスの壁にスプレーに「Ghetto 4 Life」と描き、訪れる観光客を驚かせ、ブロンクス区のブランド再構築に一石を投じることになったのです。
多くのブロンクス市民がバンクシーの言葉の選択に怒りをあらわにしているが、当然です。私たちは『Ghetto 4 Life』ではなく、多様なコミュニティからなる活気ある区なのです。私たちは、人々がアメリカンドリームを生きている場所なのです。140万人の人々にとって、私たちは故郷なのです。バンクシーは、私たちの地区に関する古くからの固定観念を売り物にする前に、そのことをよく覚えておいた方がいいでしょうね。
残念ながら、今日も何百人もの人々がブロンクスに足を運び、「Ghetto 4 Life」と書かれた壁を見ていくことでしょう。ブロンクスで起きているあらゆる素晴らしいことを知るためにilovethebronx.comを訪問し、ここにいる間に多くの文化的アトラクションや世界クラスのレストランを利用することをお勧めします。
バンクシーについては、グラフィティ・アートとグラフィティ文化がブロンクスで生まれたことを認識すべきです。時代遅れのネガティブなステレオタイプを再利用するのではなく、「ニューブロンクス」の物語を伝える手助けをするほうが、彼の才能を生かせるかもしれない。
