「Napalm」というタイトルのこの作品は、1972年6月8日にベトナム戦争中に写真家ニック・ウットによって撮影され、ピューリッツァー賞と、世界報道写真大賞を受賞した「ベトナムの少女(Napalm Girl)」をモチーフにしたものです。
写真に加えられた、アメリカ文化の2つのシンボル「ミッキーマウスとドナルド・マクドナルド」はベトナムの少女が、消費文化が蔓延る貪欲な資本主義の世界へと引きづりこまれていることを意味しています。
バンクシーはこの作品で、もう1つアメリカ文化のシンボルを表現しています。
アメリカの2大企業「ディズニーランド」「マクドナルド」と合わせて「コカ・コーラ」も資本主義・消費文化のシンボルとして表現しているのです。
バンクシーは「Napalm」を通じて、どんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。
バンクシー展 GMOデジタル美術館 東京・渋谷に行ってみた!
バンクシー名言128選!英語&日本語の意味・メッセージも合わせて解説
「Napalm」の意味
1972年、東西冷戦下における代理戦争的意味合いの強かったベトナム戦争は、アメリカの介入によって泥沼の様相を呈しました。南ベトナム軍の戦闘機は、アメリカ軍の命令で村にナパーム弾(焼夷弾)を投下したのです。
火の海となった村を泣き叫びながら逃げ出す裸の少女を写した報道写真は、戦争の無惨さを見事に捉えています。
この写真の公式の題名は「The Terror of War(戦争の恐怖)」でしたが、写真の中央に写っている裸の少女に付けられた「ナパーム弾の少女」というタイトルで広く知られるようになりました。
資本主義を共産主義の「脅威」から守るという名の下に、300万人以上の命を奪ったベトナム戦争。
その資本主義の表の顔を表すシンボルとして描かれたのが、遊園地とファストフードのマスコットキャラクターなのです。
ミッキーマウスとドナルド・マクドナルド
アメリカの消費文化・資本主義を象徴する2人のアイコン「ミッキーマウスとドナルド・マクドナルド」と、少女を並べて描いた「Napalm」。
アメリカ文化の象徴の無邪気な笑顔は、最も脆弱な人々への影響から免れ、利益の無謀な追求における巨大企業の不吉な現実を示唆しています。バンクシーは明らかにアメリカの消費文化を批判し、警告しています。
その不快さは、満面の笑みのカラフルなアイコンと、火傷の痛みで叫んでいるモノクロの少女の対比からきています。そして、アメリカ文化の2つのシンボルと、最も恐ろしい戦争の写真の1つとの比較は、戦争の商品化を浮き彫りにしています。
「Napalm」は、軍需産業と武器商人に対する印象的なメッセージでもあり、植民地主義による悲惨な影響までも表現しているのです。
アメリカが推し進めるグローバリゼーションの影響が、それほどにまでに大きくなったことを揶揄した作品「Napalm」。
ただ、アメリカのナパーム弾によって被爆した9歳の少女も、アメリカの資本主義の前には感情を抑えられないのです。
コカ・コーラの有名なキャッチフレーズ
ディズニーランド・マクドナルドという、子供から大人までを魅了する大企業のキャラクターが描かれた「Napalm」。
バンクシーはここでもアメリカの消費文化を皮肉り「巨大企業の無謀な利益の追求=資本主義の過剰」が健康被害、特に子供たちに与える影響について警告しています。
バンクシーの公式本では、この作品の隣にこんな言葉が添えられています。
「You can’t beat the feeling」
この言葉は、コカ・コーラがCMで使ってきた有名なキャッチフレーズです。
「You can’t beat the feeling」は、直訳すると「感情には勝てない」となりますが、コカ・コーラのキャッチフレーズとしては「あの気持ちは抑えられない…」といった意味になります。
「あの気持ちは抑えられない…」という言葉を、ベトナムの少女が言っていると思ってもう1度作品を見てください。
資本主義を守るための戦争で、ナパーム弾によって重度の火傷を負いながらも、ハンバーガーを食べ、アトラクションに乗り、コーラを飲む。あの気持ちは抑えられない…
バンクシーは「Napalm」を通して「誰も資本主義から逃れられない」というメッセージを伝えたかったのではないでしょうか。
「Napalm」の作品概要
年代 | 2004年 |
画法 | シルクスクリーン版 |
サインあり | 限定150枚 |
サインなし | 限定500枚 |
サイズ | 50×70cm |
販売 |
アーティスト プルーフ エディション
Napalm (Rainbow AP)27エディション
Napalm (Orange AP)27エディション
Serpentine Edition: 50 サイン、29 サイン AP
「サーペンタイン・エディション」は、サーペンタイン・ギャラリーでの「ダミアン・ハースト展」に合わせて特別にリリースされたものです。「In the Darkest Hour there May be Light」に含まれているように、Serpentine Gallery and Other Criteria (ロンドン) によって共同出版されました。
年代 | 2006年 |
画法 | シルクデジタル顔料カラープリント |
サインあり | 限定50枚 |
サインなし | 限定29枚 |
サイズ | 30×42 cm |
販売元 | The Serpentine Gallery and Other Criteria London |
オリジナル作品を持つダミアン・ハースト
オリジナルの「Napalm」はダミアン・ハーストが持っています。
バンクシーとダミアン・ハーストはお互いに大きなリスペクトを持っており、いろんなところで協力してきました。
バンクシー非公式マガジンBANDALのTwitter
ガザ地区のハマスがイスラエルに対して空と地上攻撃で宣戦布告したことを受け、イスラエルの首相は「我々は戦争状態にある」と宣言
バンクシーはイスラエルが「テロ攻撃から自国民を守る」という名目で建設を続ける分離壁や、イスラエル軍の攻撃で疲弊したガザ地区に反戦を訴える作品を残してきた https://t.co/1jtF867IPj pic.twitter.com/3nAlT0vs1V
— BANKSY🎈バンクシー非公式マガジン (@bandal_jp) October 7, 2023
バンクシー非公式マガジンBANDALでは、Twitterにて作品解説をしています。
ぜひ、フォローしてみてください!