バンクシーが、ニューヨークで開催した「Better Out Than In」の11日目。
2013年10月11日に公開したのが「Farm Fresh Meats Inc(ファーム・フレッシュ・ミート)」のトラックを乗っ取ったインスタレーション作品「Sirens of the Lambs」です。
Sirens of the Lambsの意味は、羊たちの警報
2013年10月11日(金)ニューヨークの西端に位置する、商業地区に登場した「Sirens of the Lambs」。
食肉処理場の配送トラックが、60頭の動物のぬいぐるみ (牛・鶏・豚・子羊・パンダなど) を運んでいます。
木製の細長い薄板から頭を出している動物からは、鳴き声やスラットがきしむ音、頭をぶつけている音も聞こえてきます。
「Sirens of the Lambs」の意味は「羊たちの警報」です。
動物から聞こえてくる不協和音には、さまざまな反応が見られます。
あるシーンでは、赤ちゃんがその光景を見て泣いており、別のシーンでは配送トラックが「プライムミート(業務用食肉卸専門店)」の前で停車し、店から外を見ている店員はその様子を見て笑っています。
農夫に扮した中年男性がトラックを運転し、ニューヨークの街を2週間巡回しました。
動物愛護の本来の意味を問いかけているような作品ですが、音声ガイドを聞いてみると他のメッセージが伝わってきます。
Meatpacking Districtと共に音声ガイドを公開
ニューヨークでの「Better Out Than In」を開催中、毎日ウェブサイトで作品の発表とともに、写真と街の名前、メッセージ、音声ガイドが掲載されました。
11日目は、街の名前「Meatpacking District」とともに、このような謎のメッセージが掲載されました。
This is a piece of sculpture art, and I know what you’re thinking, ‘Isn’t it a bit subtle?’
直訳すると、「これは彫刻作品(アニマトロニクス)です。”少し微妙ではないか?” と、思っていることはわかります」となります。
アニマトロニクスとは、アニメーションとエレクトロニクスを組み合わせた立体彫刻のことです。
バンクシーは、食品業界の残酷さについて独創的に批判しています。また、幼少期の無邪気さを失うことについて、曖昧でもったいぶった批判でもあるのです。
まるで生きているかのようにコンピューターで遠隔操作されている動物のロボットですが、「Sirens of the Lambs」は少し動きが微妙でした。
音声ガイドでは、このようなことを案内しています。
トラックには60個以上の抱きしめたくなるぬいぐるみが入っており、即死への道を進んでいます。しかし、それらに命を吹き込むためには、4人のプロの操り人形師がバケットシートに縛り付けられ、全体が黒いライクラで覆われ、各手足でレバーを引き、1日に1回だけトイレ休憩が与えられています。家畜よりも低い評価を受けている存在は、パントマイムアーティストです。
The truck contains over 60 cuddly soft toys on the road to a swift death. However, in order to bring them to life, four professional puppeteers are required, strapped into bucket seats, dressed entirely in black lycra, pulling on an array of levers with each limb and given only one toilet break a day – proving that the only sentient beings held in lower esteem than livestock are mime artists.
音声ガイドは、トラックの中で4人のパントマイム・アーティストが、動物を操作していることを説明しています。
「Sirens of the Lambs」の核心的なメッセージは、文化的不可視性です。
私たちは普段、パントマイムアーティストのパフォーマンスには注目しますが、全身を覆う衣装を着て、トイレ休憩もなくその場に立ち尽くす過酷な状況には注目しません。
それと同じように、配送トラックで運ばれる生きた動物を見ることはありますが、これから食肉処理される文脈で見ることはありません。
モチーフは、”The Social Mirror”
「Sirens of the Lambs」のモチーフとなっているのは、「The Social Mirror」という作品です。
バンクシーが開催した「Better Out Than In」のちょうど30年前、1983年の第1回ニューヨーク市アート・パレードでデビューしたのが、「The Social Mirror」です。
社会の鏡という意味の作品は、鏡を装備した衛生局のごみ収集車でした。
制作した、Mierle Laderman Ukeles(ミエルレ・ラダーマン・ウケレス)は、このように語っています。
鏡は自分自身を写しますが、市民は鏡に写るのを恐れています。衛生局のごみ収集車の横に、自分の姿が映っているのに気づいたかもしれません。The Social Mirrorによって、市民は衛生局のごみ収集車とつながっていることに気付きました。
ウケレスは、コンセプチュアルアートをニューヨーク市民の「メンテナンス」に関連付けたアーティストです。1977年から、ニューヨーク市衛生局の最初で唯一の公式アーティスト・イン・レジデンスを務めています。
ウケレスの作品は、アーティストの役割と街を機能させるサービスとの関係、そして最も重要な日常の不可欠なタスクを実行する労働者を中心に展開しています。
人々は他者の視点を通して、自分の潜在意識にある思考や感情を投影しているという「ソーシャルミラー理論」に基づいて制作された「The Social Mirror」。
ウケレスのように、バンクシーは社会の特定の側面、現代の食料システムにおける動物の文化的な不可視性に注目を集めたのでした。