バンクシーが、ニューヨークで開催した「Better Out Than In」の3日目。2013年10月3日に公開したのが「Dog Peeing on Fire Hydrant in “You Complete Me”」と呼ばれる、消化器におしっこをする犬の作品です。
You Complete Meの意味は、君が僕を完全にする
2013年10月3日(木)マンハッタンのチェルシー地区に登場した「You Complete Me」。このスプレー・アートは、犬に小便をかけられている消化器が、愛の言葉「You Complete Me(君が僕を完全にする)」と言っている作品です。
「You Complete Me」は、トム・クルーズが最も愛した映画作品の1つと挙げる「ザ・エージェント」で、プロポーズした時の有名なセリフです。
Not Complete(不完全)な私をあなたが満たしてくれるという人間味溢れる名言は、2008年公開のバットマンシリーズ「ダークナイト」 でジョーカーがバットマンに放つセリフにもなりました。
”悪役がいるからこそ引き立つ、正義の味方”と言われますが、悪役=”犬の小便”で、満たされる正義の味方=”消化器”を描いた作品で、バンクシーはどんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。
クレヨンのための段差が欲しかった
ニューヨークでの「Better Out Than In」を開催中、毎日ウェブサイトには作品の発表とともに、写真と街の名前、メッセージ、音声ガイドが掲載されました。
3日目は、街の名前「Midtown」とともに、このような謎のメッセージが掲載されました。
All I ever wanted was a shoulder to crayon
直訳すると、「クレヨンのための段差が欲しかった」となりますが、悩みを聞いてくれる人が欲しかったのだと推測されます。
メッセージには、”crayon(クレヨン)”と表現されていますが、これは”cry on(クライ オン)”にかけた言葉ではないかと思います。
“shoulder to cry on”には、悩みを聞いてくれる人・同情してくれる人・困ったとき頼りになる人という意味があります。”cry on(クライ オン)”を、”crayon(クレヨン)”にかけることで、アーティストならではの表現にしています。
火を消すよりも、犬の小便器として満たされている消化器。
ニューヨークのいたるところにこの消化器はありますが、街の設備が機能していないことへの皮肉的なメッセージと解釈できます。
修復される作品
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ストリートアートは、消されたり、塗りつぶされたり、盗まれたりする運命にあります。
バンクシー作品も例外なくその対象になったのですが、作品を復元しようとする人たちも現れました。
インスタグラムの動画の男は「Banksy Restoration Society(バンクシー復元の会)」と呼ばれ、正体を明かさずに作品の復元を各地で試みました。後に、Perry Levy(ペリー・レヴィ)というブルックリン出身の、サウンドデザイナー兼ミキサーだとわかります。
ストリートとソーシャルメディアを融合させた美術展は、多くの人に拡散され街中を巻き込んでいきます。
「毎日”観光名所”がニューヨークに誕生しています」とテレビ局が取り上げ、街頭インタビューを始めたのもこの頃からでした。
ニューヨークで作品が描かれた場所
バンクシー・ダズ・ニューヨークの3日目は、マンハッタンのChelsea(チェルシー地区)に描かれました。24th street &6th avenueと呼ばれる、ミッドタウンの6番街に登場した作品は、今では別のストリートアートに塗りつぶされ跡形もなく見れなくなっています。
当時「たかが落書きだろ」「バンクシーで騒ぎすぎだ」という声もありましたが、作品が公開されるとTwitterやInstagramを使い、短時間で情報が拡散されていきました。
「見つけた!」「ついに発見」「急げ、作品が消えるぞ」と、宝探しはファンの間で使命になっていきました。