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バンクシー作品解説

小池百合子とバンクシーの東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

2019年1月17日、小池百合子都知事は『バンクシー作品らしきネズミの絵』と一緒に撮影した写真をTwitterに投稿した。東京都は本物のバンクシー作品かどうか調査を始め、ステンシルされた防潮扉を倉庫で保管したことがニュースで取り上げられ、日本中の注目を集めた。

『アンブレララット』や『東京ラット』、『東京 2003』と呼ばれる作品は、2019年4月25日〜5月8日に東京都庁第一本庁舎2階のロビーで一般公開された後、絵の描かれた防潮扉が設置されていた場所に近い「日の出ふ頭2号船客待合所(シンフォニー乗り場)」に現在、展示されている。

防潮扉の一部に描かれた「バンクシー作品らしきネズミの絵」の展示について

この記事では、小池百合子都知事が「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです。」とツイートし、話題となった作品『アンブレララット』について、本物なのかや意味、メッセージまで詳しく解説していきます。

ぜひ最後までご覧ください。

バンクシーネズミ作品『アンブレララット』の意味

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

バンクシーのネズミ作品の名前は『アンブレララット』です。

『アンブレララット』の意味は、風に乗ってやってきたネズミがグラフィティの世界に誘っていることを指します。

東京都港区の日の出駅付近で見つかったネズミは、傘とボストンバックを持っています。バンクシーの故郷イギリスで、傘とボストンバックといえば、ディズニー映画にもなった「メアリー・ポピンズ」です。傘をさしながら空から舞い降りてくる魔法使い「メアリー・ポピンズ」は、子供たちのしつけや身の回りの世話を担います。

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

風に乗ってメアリー・ポピンズがやってきたのは、なんとバンクス家でした。彼女が、部屋に入ってパチッと指とならすと、魔法がかかり子供たちと小さくなっていきます。そして、彼女たちは大道芸人をお供に絵の中へと冒険に出掛けるのでした。

身体が傘に入り切っていないネズミは、空を見上げ、次の風を待っているようにも見えます。

一見かわいらしいネズミは、バンクシーが「自分を表現」するために何度も描いてきたモチーフです。

バンクシーはなぜネズミを描いたのか?

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

ネズミはバンクシー作品に頻繁に登場する、代表的なモチーフの1つです。

バンクシーの特徴的なネズミは、ストリートアーティストであるバンクシー自身を投影しています。英語で「Rat」は、ドブネズミを指します。 ドブネズミは病原菌を撒き散らしたり、家財や電線を食いちぎる害獣として忌み嫌われています。

人目を盗んで夜な夜な活動する街の害獣を、公共の場にグラフィティと呼ばれる壁画を描く「社会の嫌われ者」と重ねています。

【新美の巨人たち】バンクシー「ウクライナ郵便局の切手」×内田也哉子2023年10月7日22:00~テレビ東京

グラフィティでは、タギングで自分の存在を街に残していきます。タギング(tagging)とは、街のあちこちに見られるマーカーやスプレーペンキで描かれた落書きの一種で、個人の名前や集団のマークとされるものを描いて回る行為です。

バンクシーは、「BANKSY」の代わりにネズミを描いて街に存在を残しました。

やつらは許可なしに生存する。やつらは嫌われ、追い回され、迫害される。やつらはゴミにまみれて絶望のうちに粛々と生きている。そしてなお、やつらはすべての文明を破滅させる可能性を秘めている。

もし君が、誰からも愛されず、汚くてとるに足らない人間だとしたら、ネズミは究極のお手本だ。

労働者階級である自分をかごの中に入ったネズミに見立て、反体制的価値観を反映する大衆の蜂起の可能性を比喩しています。

バンクシーにとってのネズミ

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

バンクシーがネズミを描くようになったのは、1999年以降です。

故郷ブリストルからロンドンに拠点を移動したバンクシーは、時期を同じくしてラットのシリーズを、頻繁に描くようになりました。

東京で見つかった『アンブレララット』のほかにも、ラジカセを抱えたヒップ・ホップ・スタイルのラットや、プラカードを掲げたラットなど、様々な「RAT(ラット)」のアナグラム「ART(アート)」を街中に放ちました。

すべての害虫が良い装備を手に入れれば、地下組織が地上に進出し、この都市を引き裂くだろう。

ネズミをストリートで描いたのは、バンクシーが初めてではありません。

1980年代にパリを中心に活躍したステンシル・グラフィティの父「ブレック・ル・ラット」は、街で自由に動き回り、人々に大いに悪影響を与える存在として、ネズミを描いていました。しかも、バンクシーと同じステンシルを用いていました。

小池百合子都知事のバンクシーツイート

バンクシーが日本で広く知られるきっかけとなったのは、2018年のシュレッダー事件でした。

そして、シュレッダー事件の余韻が残る2019年1月、小池百合子都知事がバンクシーの名を日本に知らしめる決定打となるツイートをしました。港区の防潮扉に描かれたバンクシー作品と思われるネズミを「かわいいねずみ」と呼び、2ショットを投稿しました。

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

小池百合子都知事は、2019年4月19日の会見で「バンクシー作品らしきネズミの絵」の一時公開について「東京都として公共物への落書きを容認しているわけではない」と前置きした上で、このように発表しました。

世間の関心も高いことから、一定期間、絵の実物を見ていただく機会を設けることといたしました。

バンクシーのネズミは本物か?

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

小池百合子都知事がバンクシー作品らしき「かわいいねずみ」騒動の焦点は、本物かどうかでした。

バンクシーの専門家はこのように見解を示しています。

公式作品集に掲載されているためバンクシー作である可能性は高いが、100%本物という確証はない。

「バンクシー作品らしきネズミの絵」は、2006年に刊行されたバンクシーの公式作品集『Wall and Peace』の107ページに『TOKYO 2003』のキャプションがついて掲載されている作品と酷似しています。ボルトの位置や地面のコンクリートに走るひびも同じであることから本物の可能性がきわめて高いとされています。

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

ただ、作品集では反転して掲載されていました。これは、製本時の写真反転ミスなのではないかと推測されています。

バンクシーはグラフィティについて、本物かどうかは認証しないスタンスをとっており、本物かどうかを確認する機会を与えることは出来ないと回答しています。

バンクシーのネズミは映画にも登場している

「バンクシー作品らしきネズミの絵」は、2010年に公開したバンクシー監督のドキュメンタリー映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』にも登場しています。

その様子は、予告版でも確認できました。

バンクシーのネズミは2009年には確認されていた

「バンクシー作品らしきネズミの絵」は、2009年から目撃報告があり、この頃にはすでに描かれていたものと推測されます。

また、現場を所轄する港湾局の職員にも知られていました。

バンクシーは日本に来たことがありますか?

https://banksyunofficial.com/2017/04/16/early-street-art-abroad-2000-2003/

バンクシーは、20029月に大阪で展覧会を行うために来日したという記録が残っています。

その来日した際に描かれたものである可能性が高いとされる。

また、バンクシーの活動情報から集めた「Bankysy unofficial」というサイトには、2000~2003年にバルセロナ、東京、パリ、ロサンゼルス、イスラエルを訪問し、初期ステンシル作品シリーズ「Love is in the air」を各地に書き残したという記録も残っています。

バンクシー『アンブレララット』のメッセージ

バンクシーwith小池百合子の東京ネズミ『アンブレララット』の意味・作品解説

『アンブレララット』のメッセージは、日本にグラフィティの魔法をかけに来たということです。

バンクシー作品には、痛烈なメッセージ性があります。

バンクシーの手がける作品は、反消費社会や反資本主義、移民問題や戦争について人々の意識に訴えかけています。特にバンクシーが制作したガザ地区の壁画は、戦争に対する批判や子供達が受ける被害など、世界で起きている問題を見る人に訴えかける強烈なメッセージが含まれています。

「バンクシー作品らしきネズミの絵」は、いまいちそのメッセージ性を読み取りにくい作品です。

作品の解釈は、それぞれの人に委ねられます。

イギリスで160年以上の歴史を持つUCA芸術大学の名誉教授に就任したバンクシーは、代表作に新たな解釈を加えパロディ化することで、より多くの人に問題提起を届けています。

バンクシー『アンブレララット』の別バージョン

小池都知事が撮影したネズミの絵は、バンクシーが2000年代前半によく描いていた特徴的な作品です。

バンクシーネズミ作品『アンブレララット』の展示場所

東京のバンクシー作品は、こちらで見れます。

〒105-0022 東京都港区海岸2丁目7−104
日の出ふ頭2号船客待合所(シンフォニー乗り場)(港区海岸2-7-104)

東京都公式ホームページでは、本物なのかどうかと、日の出ふ頭に展示することになった経緯をこのように掲載しています。

この防潮扉に描かれた絵がバンクシーの作品であるかの真贋は現時点では不明です。公共物への落書きは決して容認できるものではありませんが、地元の方々からは、地域資源として本来の場所に戻すか、あるいは近い場所で保管し、多くの都民が見学できるようにして欲しい旨の要望があり、日の出ふ頭の賑わい向上にも資することから、絵の描かれた防潮扉が設置されていた場所に近い同ふ頭において展示することとしました。

違法行為&体制批判のグラフィティを都知事が保護

「バンクシー作品らしきネズミの絵」は、本物なのかと合わせて争点となったのが、違法行為の保護です。

本来グラフィティは違法行為であり、なぜバンクシーだけが大切に保護されるのかという批判が相次ぎました。また、反体制の一貫したスタンスのバンクシー作品を、独占的に保管し、アピールに利用する都知事に対して批判も多く見られました。

実は、2018年12月、東京国立近代美術館館長の神代浩は、バンクシーの作品に酷似していることから、東京都に保護の必要性について情報提供をしていました。東京都は、2019年1月17日に作品が描かれていた防潮扉を撤去し、保存・鑑定作業を始めたという経緯もあるようです。

2018年11月には、東京入国管理局近くに描かれた『FREE REFUGEES(難民たちを解放せよ)』という落書きを東京都が消していた別の事例もありました。

日本に相次ぐ偽物バンクシー

小池百合子都知事のツイート以降、日本中でバンクシーかもしれない作品の報告が相次ぎました。

茨城県高萩市で見つけられた同じ作品について、東京新聞がバンクシー本人にメール取材を行ったところ「This is not by Bansky」(綴り間違いはバンクシーのメール原文ママ)という回答を得たという報告もありました。

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