『Sale Ends Today(セールエンズ)』の意味は、販売終了です。バンクシーなどストリートアーティストが作品を販売していた「POW」の最終日も飾り、1つの節目となった作品とも言える『Sale Ends Today(セールエンズ)』。
16〜17世紀に描かれた伝統的な宗教画に登場するような、嘆き悲しむ女性たちの姿が白黒の特徴的なステンシル技法で描かれています。しかし、彼女たちがひれ伏しているのは、聖書に登場する磔刑に処されるイエス・キリストではなく「Sale Ends Today」と書いてある看板の前です。
実はこの作品、バージョンが2つあり、それぞれ別のタイミングで公開されました。さらに、バージョン1とバージョン2では、描かれている人や人数が異なります。ストリートを主戦場とするバンクシーの作品は、公開された場所、時期、描く内容が異なれば、作品のメッセージも異なってきます。
そこで、今回は「Sale Ends Today」に込められた意味やメッセージを、バンクシーの言葉とともに解説していきます。
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『Sale Ends Today』の意味は、消費文化・資本主義への批判
2006年に制作された「Sale Ends Today(セール・エンド・トゥデイ)」は、バンクシーの不遜なユーモアを壮大なスケールで描いています。
横幅4メートルを超える広大なキャンバスの真ん中には、緊急事態を告げるような赤い看板に白抜きの文字で「SALE ENDS TODAY」と書かれており、必ずしも必要ではない製品の購入を促すように設計された看板広告を連想させます。
ルネサンス絵画を彷彿とさせるドレープマントを纏う4人の女性は、ひざまづき祈り嘆いています。その様子は「セール最終日」を悼むと同時に、資本主義を崇拝しているのです。
この作品を通してバンクシーは、先進国における行きすぎた消費文化・資本主義を、もはや “聖なるもの”として崇められている宗教にまで成長した風刺として描いています。
そして、大企業の栄光に満ちた覇権的な地位についてシニカルに描くことで、大衆が崇拝する「特売」や「安売り販売」への献身的な熱狂について問題提起をしています。
ルネサンス絵画「モンドの磔刑図」がモチーフ
「モンドの磔刑図」は、1502年〜1503年に古典主義絵画の祖でイタリア画家のラファエロ・サンティによって制作されました。十字架に架けられたキリストは穏やかな表情をしており、足と手と脇腹の傷を除いて平和な状態で描かれています。
本作品は、痛みや苦しみ、死の辛さや恐ろしさではなく「聖変化の教義」を表現しています。
聖変化とは、パンとぶどう酒が、イエス・キリストの体(聖体・聖体血)に変化することを意味しています。パンとぶどう酒の形態におけるキリストの現存のことを指します。
福音の登場人物に触発された本作品は、ルードウィッヒ・モンドの遺言によりロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。
アンディ・ウォーホルとの比較
「Sale Ends Today」は、ポップアートへ批判とも言われています。
ポップアートは「大量生産・大量消費の社会」をテーマとして表現する現代美術のひとつです。1950年代半ばのイギリスでアメリカ大衆文化の影響の下に誕生した後、1960年代にアメリカ合衆国でアンディ・ウォーホルなどのスター作家が現れ、世界的に影響を与えました。
敬虔なカトリック教徒の両親のもと育ったアンディ・ウォーホル少年の精神には、カトリック教とアメリカ大衆文化が深く刻まれました。
イコンを髣髴とさせる代表作「マリリン・モンロー」や、悲劇を象徴する女性「ジャクリーン・ケネディ」は、聖母になぞらえた作品と言われており、 “聖なるもの”として崇められている様子が色濃く作品に現れています。
また、「キャンベル・スープ缶」や「コカ・コーラボトル」、その他のアメリカのアイコンの描写から、アメリカ大衆文化への献身的な崇拝も垣間見えます。
「Sale Ends Today」のモノクロの女性と、赤地に白文字の宣言文を重ねた構成は、エド・ルシェやバーバラ・クルーガーなど言葉と広告媒体のイメージを用いたコンセプチュアル・アートを思い起こさせます。
ポップ・アートは、広告やメディアを含む大衆消費社会に向けられた賛歌であり、それは多様化、深化する中でコンセプチュアル・アートを導いていきました。
前世紀のあらゆる芸術運動には、その種というべき展覧会がありました。ポップ・アートにとって「アメリカン・スーパーマーケット展」であり、現代のインスタレーション・アートにとって「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト展」であり、グラフィティとストリート・アートにとっては、バンクシーの「ベアリーリーガル展」でした。
2006年LAで開催「ベアリーリーガル展」で初公開
「Sale Ends(セール エンド)」は、2006年9月にロサンゼルスの倉庫で開催された「Barely Legal(ベアリー・リーガル)」で初めて公開されました。
バンクシー初となるアメリカでの個展にはブラッド・ピットなどハリウッドスターやセレブが集まり、バンクシーの人気に火がついた個展とされています。
「Sale Ends」は、キャンバス上の大きなサイズの作品だけでなく、版画のシリーズとして発表されました。「Sale Ends」のオリジナルバージョンや、LAエディションとも呼ばれるプリント6点セットには、フェスティバル、グラニー、拍手、トロリー、モロンが含まれ「ベアリーリーガルセット」として、500ドルで販売されました。
2006年7月、バンクシーはシェパード・フェアリーの推薦で、ロサンゼルスの印刷会社「Modern Multiples(モダン・マルチプルズ)社」のリチャード・ドゥアードに接触しました。9月に個展のためのオリジナル作品の印刷を注文するとバンクシーは姿を消し、展覧会の開かれる10日前に、複製のために準備した作品を持ってロサンゼルスに飛び込みました。
元々500枚の印刷を予定していましたが、締め切りなどが影響して100枚だけ印刷になりました。そのため、番号は「/500」になっています。100枚のプリント版には、バンクシーがサインし「Pictures on Walls」の記章が入れられています。
他にも「顔にパイをぶつけられる貴族」を描いた7点目の作品も印刷される予定でしたが、締め切りや複雑事情が原因で「ベアリーリーガルセット」は6枚になりました。
2017年、POWの”販売終了日”にVer.2を公開
2006年のオリジナルバージョンをリワークした「Sale Ends Today(v.2)」は、「Pictures on Walls」が閉鎖される前に販売された最後のプリント作品でした。
バンクシーのプリント作品の主な販売元であったギャラリーPOWこと「Pictures on Walls」は、「ベンチャー反資本主義者に買収され、2017年12月31日から取引を停止する」と発表しました。そして、閉店セールを開催し、残っていたいくつかの「Sale Ends Today」と、500枚の「Sale Ends Today(v.2)」をリリースしました。
POWの閉鎖を嘆くような「Sale Ends Today(v.2)」には、5人目の男が追加されました。
バンクシーの名言「買い物に行くべきです」
バンクシーはこの作品について、このような言葉を残しています。
資本主義が崩壊するまで、私たちは世界を変えるために何もすることができません。
それまでの間、私たちは皆、自分たちを慰めるために買い物に行くべきです。
消費文化と資本主義への批判は、バンクシーの重要なテーマです。先進国の過剰な消費文化に対し「トロリー・バーコード・セールエンド・ショッピングバッグを持ったキリスト」などで、頻繁に問題提起してきました。
都市環境そのものを作品を表現する新しいメディアとして利用する「非認可の公共芸術作品」は、広告やメディアを含む「大量生産・大量消費の社会」をテーマとするポップアートと対比の関係にあります。
「Sale Ends Today」は、風刺と伝統をウィットに富んだ絶妙なバランスで表現すると同時に、ブリストルの路上で磨いたストリートアートが創造的な才能の頂点にいることを示唆しているのではないでしょうか。
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