ストリートアート本場ロンドンで活動を始め、世界各国で壁画作品を制作するアーティスト・AITO KITAZAKI。5月3日〜5月9日まで東京・池袋の西武そごうで個展「AITO KITAZAKI “NOTICE”」を開催した。
海外では「日本のバンクシー(The Japanese Bnaksy)」とも評されるAITO KITAZAKI。BANDAL編集部では、個展の作品群を間近で見ようと、西武池袋へ向かった。
- 和製バンクシーAITO KITAZAKI作品「This is a regret」解説
- 日本のバンクシーAITO KITAZAKIが現代アート展で制作した作品『Talk is cheap』解説
- ジャパニーズバンクシー『AITO KITAZAKI』13の真実
まず館内に入ると目に入るのは、AITO KITAZAKI自身が作品を描くときに使っているステンシルだ。カッターナイフで細かく切られたステンシルは、テープで繋ぎ止められている様子はない。とても丁寧に縁取られたステンシルの周りは、カラースプレーの跡も見られる。のちに紹介する作品を見ていただくことで、このステンシルからどんな作品が生まれたのかがわかるはずだ。
そして最も目を引く場所に展示されているのが、AITO KITAZAKIの代表作「You never know until you try」という作品のミクストメディアだ。
ミクストメディアとは、現代美術において、性質や種類の異なる二種類以上の素材・技法の組み合わせにより構成されたアート作品のことである。この作品のオリジナルバージョンは、2020年に販売したストリートアーティスト「AITO KITAZAKI」の10年間の軌跡の全てを収録した初の作品集の表紙とタイトルにも採用されている。
”やってみなければわからない”と題されたタイトル通り、少年が両手にたくさんの赤い風船は、希望や期待をたくさん持っているかのように宙を飛ぼうとしている。その目の前には、巨大なビル群と不気味に塗られた空。不確実性が高く将来の予測が困難な状況に立ち向かう少年の姿がコントラストを演出している。
AITO KITAZAKIの代表作と並べて展示されている作品「Again&again」にも注目だ。赤い翼で飛び立とうとする鳥。実はこの鳥にも見える動物は、ペンギンだ。主に南半球に生息する鳥の1種で「鳥網」という分類の「ペンギン目 ペンギン科」の海鳥は、飛ぶことができない。しかし、「挑む限り可能性は無限だ」という作品のメッセージもあるように、何度も挑戦するたびに「again」という翼を授かっている。
よく見てみると赤い「again」は、かなり細かく縁取られ切られていることがわかる。この作品も、ステンシル作品と背景の組み合わせにより構成されたミクストメディアである。
次に目に入るのが、西洋書ページに描かれた「Touch boy」「Touch girl」と、台に配置されている「Earth helper」「Reason why i paint a picture」だ。Touchシリーズは、引き裂かれたページにそれぞれ違うタッチで少年・少女が描かれている。そこには「わたしとあなたは同じ1つのペンで描かれた、タッチが違うだけのおともだち」というメッセージがある。
元々は1枚のページに描かれ、手を繋いでいたであろうタッチの異なる2人は、何者かによって引き裂かれてしまっている。同じ人間でも、人によって見え方が違うことを示唆しているのか。右側のタッチが荒い方に多く、外国語が書かれているのも何かのメッセージなのかもしれない。
台に配置されている左側の作品「Earth helper」は、2016年に東京で描かれた作品だ。「People never realize how much important until lost it. (人間は、どれほど大切なのか失うまで決して気づかない)」というメッセージがある。ヘルバーさんによって介護されているのが、地球ではなく地球儀なのがせめてもの救いか。
「Reason why i paint a picture」は、2017年ニューヨークで描かれたストリートアートのプリント版だ。「最高傑作という名の最愛の人。あなたに出会うが為、僕は絵を描き続ける」というメッセージが込められている。全てのアーティストに共通するであろう根源を作品にしている。
プリント版はコンパクトになっているが、ストリート作品は「想像以上にデカい!」というが第一印象だった。
続いて紹介するのは「Rule」。赤い英語の4文字に両手両足を繋がれているサラリーマン風の男。「日本の正解が、俺たちの正解とは限らない」というメッセージがある。ネクタイの男は、誰かが決めたルールに縛られているのか、縛りから解かれようともがいているのか…。これはAITO KITAZAKI自身が感じた〝日本と海外の文化の違い〟を率直に表現した作品といえよう。
個展の入り口では、「Blood Stencil “So Boring”」という作品が展示されていた。「己の自由を拘束するのは、クソ退屈な道を選ぶ自分自身」というメッセージが込められた作品。ただ、クソ退屈に拘束された男の目は死んでいない。
この作品は、2015年ストリートアーティストとして日本で生きづらかった時、自分に言い聞かせるために作ったと振り返るAITO KITAZAKI。ストリートアートに寛容な海外で、血のにじむような努力を続けてきた彼は「Blood Stencil “So Boring”」で日本にメッセージを送っている。
Bloodシリーズは、もう1つある。「Blood Stencil “Talk is cheap”」は、血のにじむような努力を続けてきた彼だからこそ表現できる作品だ。
「口から発した決意など、単なる音の振動にすぎない」というメッセージが込められている。なにごとも口で言うだけなら簡単だが、実行するのはむずかしいという意味のことわざ「言うは易く行うは難し」を表現した作品。その男は自ら口にチャックをして、主張するようなTシャツを着ている。
日本のバンクシーAITO KITAZAKIが現代アート展で制作した作品『Talk is cheap』解説
「Life is too short(光陰、矢の如し)」は、実寸の定規をもとに制作されている作品だ。70代の場所に立っているおじいちゃんは、小さい数字を振り返っている。この作品には「金や歳ではなく、あといくつ心踊る体験が出来るのか。数える事はそれだけでいい」というメッセージがある。
「FAILURE」という作品も目をひく。失敗を重ねたからこそ、今があるということを伝える作品。描けば描くほど上手くなっている過程を表現した「FAILURE」を見ると、それまでの過程も失敗ではないと思えてくる。
そして、一般的にフリーハンドで描くであろうグラフィティを、ステンシルで制作していたことには驚いた。とても細かい…。
最後にもう1度、ステンシルを見てみる。
ステンシルは、アート性はなくクリエイティブじゃないという声を聞いたことがある。型紙ありきのステンシルは、それがあれば誰でも出来るものかもしれない。だからこそバンクシーのように”どこに描くか”によって、メッセージを伝えているストリートアーティストもいる。
AITO KITAZAKIが描く作品の共通点は、”日本人の応援”だと思う。
赤い風船を持つ少年・ルールに縛られたサラリーマン・クソ退屈に拘束された男・失敗を描き続ける青年など。どの作品も、日本人の背中を押すメッセージ性の強い作品だ。これらの作品がストリートで描かれているのは、日本ではなく海外。海外からメッセージを発信するAITO KITAZAKIの作品は、海外にいる日本人や海外に挑戦する日本人をはじめ、すべての日本人を応援する作品になっている。
ステンシルは、誰でも出来るものかもしれません。しかし、このメッセージを伝えられるのは、海外でストリートアーティストとして活動してきたAITO KITAZAKIだけではないだろうか。
- 和製バンクシーAITO KITAZAKI作品「This is a regret」解説
- 日本のバンクシーAITO KITAZAKIが現代アート展で制作した作品『Talk is cheap』解説
- ジャパニーズバンクシー『AITO KITAZAKI』13の真実
バンクシー専門サイトの人が自分の西武池袋個展にわざわざ来てくれたらしい。 記事の内容もかなり興味深いhttps://t.co/cEsv7IImYO @より
— アイトキタザキ – AITO KITAZAKI (@AitoKitazaki) June 3, 2023