バンクシーの代表作品と知られる「Love Is In The Air(LIITA)」は、2003年にパレスチナの壁に登場してから、いろんな場所で描かれた作品です。バンクシー公式作品集「Wall and Piece」の表紙やプリント作品、公式の商品など様々なところで採用されてきました。
Love Is In The Airの意味は「愛が漂っている雰囲気」です。他にも「愛のはじまり」や「恋の予感」などの意味を持っています。直訳すると「愛は空中に」となるLove Is In The Airは、バンクシーの思想や活動家としての姿勢を象徴するグラフィティ作品です。
バンクシーは「Love Is In The Air(愛は空中に)」で、どんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。
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Love Is In The Air(愛は空中に)の意味とは?
Love Is In The Airの意味とは「愛と平和の呼びかけ」と「強力な反戦運動」と解釈されます。
バンクシーの代表作品「Love Is In The Air」は、顔をバンダナで隠した青年が、特徴的なステンシル技法で描かれています。青年は暴徒に扮し、明らかに攻撃的な姿勢をとっています。しかし、その手に持っているのは、火炎瓶(モロトフ・カクテル)ではなく花束です。
愛と平和のシンボルの花束は、油彩で色鮮やかに描かれています。ステンシルという準機械化された作品に、加えられた花束。手仕上げで色鮮やかな花束を加えるスタイルは、白黒の青年と対比するように描かれています。
Love Is In The Air(愛は空中に)の場所は?
「Love Is In The Air」は、パレスチナのベツレヘム郊外べイトサフールのガソリンスタンドの外壁に描かれています。
高さ6mを超す巨大な壁画は、パレスチナとイスラエルを隔てる分離壁が建設された直後の、2003年に描かれました。
Love Is In The Air(愛は空中に)のモチーフとは?
「Love Is In The Air」のモチーフは、2つあると言われています。
白黒のステンシルで描かれた青年は、パレスチナの「インティファーダ」と呼ばれる民衆蜂起。油彩で描かれた鮮やかな花束は、ピューリッツァー賞にもノミネートされた「フラワー・パワー(武器ではなく花を)」と呼ばれる写真です。
モチーフ①インティファーダー(民衆蜂起)
インティファーダとは、アラビア語で「振り払うこと」を意味します。パレスチナにおいては、イスラエル軍に対する民衆蜂起を指します。
1987年12月イスラエル占領下のガザ地区で起きた交通事故をきっかけに、民衆の投石やストライキなどによる抗議運動が発生しました。ヨルダン川西岸地区にも拡大していった民衆蜂起は、圧倒的な武力を持つイスラエル軍の鎮圧に遭いました。イスラエルの激しい鎮圧姿勢は国際的非難を呼び,1991年秋に中東和平交渉が始まる間接的圧力となりました。
しかし、2001年首相に就任するリクード党首シャロンが、前年にイスラム聖地アクサー・モスクを訪問して以後再燃し,第2次インティファーダが始まりました。
モチーフ②フワラー・パワー(武器ではなく花を)
アメリカの写真家バーナー・ボストンが撮影した1枚の写真。
1967年6月、サンフランシスコで始まったムーブメント「Summer of Love」ではベトナム戦争を背景に、愛の象徴・平和の武器として「Flower Power」というスローガンを掲げていました。そして、自分の身体を花で着飾ったり、花模様の服をきていたヒッピーは、自らを「フラワーチルドレン(Flower Children)」と呼んでいました。
1967年10月、泥沼化するベトナム戦争を批判する為、若者中心のデモ隊がペンタゴン前に集まっていました。反戦デモは夜中になっても行われ、大勢が座り込みを行ったり、徴兵カードを燃やしたり、警備隊とデモ隊の衝突が激化し逮捕者が出るといった状態でした。
そんな一触触発の中、1人の若者が銃を構える警備隊に近づき、M-14ライフルの銃口に1本ずつカーネーションを指していったのです。自分に向けられた銃口に花を指すといった勇気ある行動は、周りのデモ隊にも広がっていきました。そして、花を銃口に指すことで怒りを鎮め、警備隊に武装解除させようとしたのです。
その瞬間を撮影した写真は「フラワー・パワー(武器ではなく花を)」と呼ばれ、その年のピューリッツァー賞にノミネートされました。
Love Is In The Air(愛は空中に)のメッセージ性とは?
バンクシーはこれまで作品を通して、資本主義や軍国主義に対する批判を行なってきました。シニカルで皮肉を込めた作品には「武器ではなく、アートで現状を変えていく」というメッセージが込められいます。その姿は、武器ではなく花で現状を変えようとしたアメリカの若者と重なります。
どんな変革も平和的な手段で、達成されなくてはならない。
さもなければもっと大きな暴力を引き起こすことになる。
どんな戦争もそうであるように、正しい者も勝者もいません。
「Love Is In The Air(LIITA)」は、反体制・非暴力ユートピアの実現を目指す、アメリカとパレスチナの若者をバンクシー自身と重ね合わせて描いたのではないだろうか。2003年の旅行中に、パレスチナで初めて絵を描いたバンクシーは、パレスチナ問題に強い関心を持ち、時には銃を向けられながら描くなど、相当な危険を冒してパレスチナで活動してきました。
バンクシーについては、批判的な意見もあるかもしれません。ただ、彼を非難できない点は、アートを通して見ている人に世界で起きている問題について広く知らしめ、現状を変えていく方法を示しているところです。
パレスチナの分離壁について、バンクシーの言葉
ヨルダン川西岸地区に建設された全長760kmの分離壁について、バンクシーはこのように言っています。
本質的にパレスチナを、世界最大の野外刑務所に変える
パレスチナ問題の経緯
「世界で最も解決が難しい紛争」とも言われるパレスチナの地をめぐる争いは、開戦から70年以上すぎた今も続いています。
アラブ人の住むパレスチナに、ユダヤ人国家イスラエルが建国されたことが原因とされていますが、その歴史は古く100年以上前にさかのぼります。19世紀、オスマン帝国が支配したパレスチナ地域には多くのアラブ人が住んでいました。そこに、欧州などからユダヤ人がやってきたことがパレスチナ問題の始まりです。
欧州などで迫害を受けたユダヤ人は、19世紀になって「シオニズム(ユダヤ人の国をつくろう)」と呼ばれる運動を始めます。国家建設の場所には、2000年前に「ユダヤの王国」があったとされるパレスチナが選ばれました。
パレスチナへ移住するユダヤ人は20世紀にかけて増え続け、元から住んでいたアラブ人は反発しました。イギリスがユダヤ人とアラブ人の双方と相反する約束を結んだ「三枚舌外交」も混乱を招き、「ユダヤ人対アラブ人」という現在に続く対立構図が始まりました。
ヨルダン川西岸地区の分離壁
分離壁は、イスラエルがヨルダン川西岸地区との境界に建設している総延長710kmに及ぶ壁です。
イスラエル側は分離壁建設の理由を、治安確保のためとし攻撃を防ぐ「防護フェンス」と呼んでいます。一方のパレスチナ側は、エルサレムからパレスチナ人を隔離する差別的な「アパルトヘイト・ウォール」だと主張しています。分離壁の大半はヨルダン川西岸地区よりも内側に建てられ、パレスチナ人の土地を奪うだけでなく、生活圏を分断し行動の自由を制限しています。
2004年に国際司法裁判所が、パレスチナの自治を阻害しているとして壁の撤去を勧告しましたが、その後も建設は続けられています。
グラフィティは、パレスチナでは抵抗の手段なんです
分離壁にグラフィティを描くのは、バンクシーだけではありません。分離壁は、建設に反対するアーティストたちが、絵画や文章を描く巨大なキャンバスになっています。
パレスチナ人アーティストのタキ・スパテーンは、イスラエルの占領を糾弾するグラフィティを分離壁に描いています。分離壁に沿って歩くことは、野外で行われている自分の壁画展を訪れるようなものだとし、分離壁は「醜い」が、ここにグラフィティを描き続けることが重要なのだと話しています。
Love Is In The Air(愛は空中に)の関連作品
初代Love Is In The Airは、ロンドンに登場
実は「Love Is In The Air(LIITA)」は、パレスチナが初登場ではありません。
バンクシーは明らかに、その日付以前にロンドンでこの象徴的なステンシルにタグを付けていましたが、それらは明らかに長い間なくなっています。
Flower Thrower(花束を投げる男)
2019年、バンクシーは公式オンラインショップを期間限定でオープンした。その時に発売した作品の一つが、「Love is in the Air」のデザインを使ったこちらの作品「Thrower」だ。
この作品は、他にも見たままのタイトル「Flower Thrower」や「Flower Bomber」で「花束を投げる男」と呼ばれることもあります。
「Flower」はオンラインショップでの発売時はたった11万円程度だったが、2020年10月14日に開催されたオンラインオークションでは3500万円以上で落札されたので、一年も経たないうちに318倍以上に価格が高騰したことになる。
この結果だけを見ても、バンクシーの「Love is in the Air」がいかに人気のある作品かがわかる。
プリント版「Love Is In The Air」
《愛は空中に》は描かれた、同年、500枚限定で赤い背景のプリント版が販売されている。Love Is In The Airは現在、 Banksy の最も象徴的なステンシルの 1 つとなり、アーティストはキャンバス上のユニークな作品とさまざまな配色で印刷された多数のバージョンを作成しています。
バンクシーの公式作品集「Wall and Piece」
2005年の公式作品集
パレスチナにある他のバンクシー作品
バンクシーは2005年にパレスチナに戻り、自由と平等を支持する9つの作品を描きました。2015年には再び訪問し、ガザ地区に住む人々の窮状を伝える目的で、爆撃された都市の廃墟の中に4つの新しい作品を描きました。
バンクシーはこの壁に一種のトリックアートのように「壁の向こう」を描いた。
アメリカの支援を受けるイスラエルは、生活水準も高い。
1枚の壁を隔てて、過酷な生活の向こうに広がるリゾート地を描くことで、イスラエルに対する批判を表現している。
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ガザ地区のハマスがイスラエルに対して空と地上攻撃で宣戦布告したことを受け、イスラエルの首相は「我々は戦争状態にある」と宣言
バンクシーはイスラエルが「テロ攻撃から自国民を守る」という名目で建設を続ける分離壁や、イスラエル軍の攻撃で疲弊したガザ地区に反戦を訴える作品を残してきた https://t.co/1jtF867IPj pic.twitter.com/3nAlT0vs1V
— BANKSY🎈バンクシー非公式マガジン (@bandal_jp) October 7, 2023
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