バンクシーが英時間12月22日12:00ごろに公式インスタグラムと公式サイトを通じて最新作『STOP WAR』を公開しました。
バンクシー2023年新作の場所は、イギリス・サウサンプトンのペッカムにある道路標識でした。
「STOP(一時停止)」の道路標識に3機のドローン(軍用無人航空機)が描かれたバンクシーの新作は、2017年に発表した作品『Civilian Drone Strike(シビリアン・ドローン・ストライク)』と同じモチーフであり、無期限停戦と武器貿易批判を意味していると考えられます。
この記事では、2023年12月のバンクシー新作『STOP WAR』の意味から場所、メッセージまでを踏まえてお届けしていきます。
バンクシー作品をオールカラーで網羅した待望の日本語版、公式作品集「Wall and Piece」はこちら
バンクシー新作の意味
バンクシー2023年の新作『STOP WAR』の意味は、戦争停止(無期限停戦)です。
3機の軍用無人航空機へ「一時停止」の警告・義務を示す赤い道路標識は、爆撃や偵察を規制するメッセージがあると考えられる。
そのことから、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突へ対する「無期限停戦」のメッセージと解釈することができます。
ただ、バンクシー作品のメッセージを解釈する時には、ストリートアートならではの「場所」という背景も含めて考える必要があるのです。
2023新作『STOP WAR』の場所
バンクシー新作『STOP WAR』が描かれた場所は、ロンドン南部ペッカムの「サウサンプトン・ウェイ」と「コマーシャル・ウェイ」の交差点、横断歩道の近くの道路標識でした。
「STOP(一時停止)」の道路標識が設置された柱には、『Commercial Way(コマーシャル・ウェイ)』と通りの名前が書かれた看板もあります。
「商業化」と訳せる”コマーシャル”は、世界的な武器貿易・軍事産業へのメッセージだと解釈することもできます。
そして、皮肉なのが「戦争の商業化」を隠喩する新作は、火葬や埋葬を担う葬儀屋「W. Uden & Sons」がある交差点に設置されていました。
2017年のバンクシー作品『Civilian Drone Strike』
バンクシー新作『STOP WAR』のモチーフは、2017年に発表した作品『Civilian Drone Strike』と同様であることは、冒頭でも触れました。
『Civilian Drone Strike』は、3機の軍用無人航空機が額縁内の子どもが描いたような絵の家を爆撃し、女の子と犬が見守っている様子が描かれています。
『民間ドローン攻撃』と訳されるこの作品は、2017年のDSEIに合わせて展示されました。
DSEIとは?
DSEIとは、世界最大級の武器見本市です。
Defense Security Equipment Internationalと呼ばれるこのイベントには、1,500以上の先端技術を誇る世界規模の防衛およびセキュリティサプライチェーンが出展し、国軍や政府関係者、著名なグローバル企業の意思決定権者が集結します。
2019年、2023年には日本でも開催されたDSEIは、1976年からイギリス政府によって開催され、1999年に民営化された歴史があります。
そして、かつて英国陸軍と英国海軍の合同展示会だったDSEIは、ロンドンでの武器販売に反対する人々や、軍事装備を批判する人々、展示会に参加する国の国民から頻繁に抗議されているのです。
DSEIを批判する『Art the Arms Fair』に寄贈したバンクシー
バンクシー作品『Civilian Drone Strike』は、2017年に開催されたDSEIに合わせて『Art the Arms Fair(アート・ザ・アームズ・フェア)』に寄贈されました。
アートで世界平和を訴える美術展『Art the Arms Fair』では、その収益を武器貿易反対キャンペーンや非武装化教育モデル『Demilitarize Education』に寄付しています。
『Demilitarize Education』とは、イギリスの大学が世界的な武器取引との関係を断ち切ることを求める平和構築者のコミュニティです。
バンクシー作品『Civilian Drone Strike』の最低落札額は、10ポンドに設定されていたが、最終的に205,000ポンド(約2911万円)で販売され寄付されました。
バンクシー作品『Civilian Drone Strike』の意味
バンクシー作品『Civilian Drone Strike』の意味は、武器貿易批判です。
子どもが描いた絵が軍用無人航空機によって爆撃される様子は、2014年7月8日未明に発表されたイスラエル軍によるガザ地区への本格的な空爆作戦を想起させます。
イスラエル軍の作戦名「境界防衛作戦(”Operation Protective Edge”)」は、およそ50か所を一斉に攻撃しました。
そして、8月3日には、国連パレスチナ難民救済事業機関が運営する学校付近が軍用無人航空機による砲撃を受け、子ども8人、国連パレスチナ難民救済事業機関スタッフ2人が殺害されたのです。
バンクシー作品『Civilian Drone Strike』に描かれた子どもと軍用無人航空機は「国際人道法に違反する犯罪行為」とも言える砲撃をモチーフに、武器販売の見本市を開催するイギリス政府を批判したと考えられます。
次世代バンクシーのZedsyも出展
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次世代バンクシーと呼ばれるZedsyも『Stop Bombing』と『Dream Bigger』いう作品をArt the Arms Fairに出品しています。
- 「Stop Bombing」アルミニウム道路標識にスプレーペイント、枠外寸法45cm x 45cm
- 「Dream Bigger」紙にスクリーンプリント、枠内寸法67cm x 67cm
バンクシーがパレスチナ・ガザ地区に作品を残す意味
BANDAL編集部では、次のガザ地区での作品発表は2024年5月と予想しています。
なぜなら、これまでの戦地作品が、侵攻開始から約8ヶ月後に発表されるという規則性があるからです。
- ガザへの境界防衛作戦:2014年7月8日→作品発表:2015年2月25日
- ウクライナ侵攻:2022年2月24日→作品発表:2022年11月11日
- パレスチナ・イスラエル戦争:2023年10月7日→2024年5月?
世界の誰も知っているがあえて話題にしない状況を海外のことわざで「Elephant in the room」と言います。
バンクシーがパレスチナ・ガザ地区やウクライナに作品を残した理由は、戦地に世界の注目を集めるためです。
まだ戦争問題が解決していないのに、世界が話題や議論しなくなったタイミングで作品を残し「部屋の中の象(Elephant in the room)」になっていることを国際社会に問題提起しています。
パレスチナ・ガザ地区に残したバンクシー作品
バンクシーは2014年、ガザ地区の壁に「強者と弱者の対立を傍観するなら、強者の側に立つことになる。それは中立ではない」と走り書きした文字だけのグラフィティを残しました。
If we wash our hands of the conflict between the powerful and the powerless, we side with the powerful – we don’t remain neutral.
ブラジルの教育学者、パウロ・フレイレの「権力側と抑圧される側との闘争に”関わりたくない”と宣言することは、すなわち権力側に与することを意味する。決して”中立を保つ”のではなく」という言葉を引用しています。
Washing one’s hands of the conflict between the powerful and the powerless means to side with the powerful, not to be neutral.
国際社会の欺瞞と無関心がどんな事態を引き起こしたのか、空爆で瓦礫と廃墟の町になったガザ地区から訴えたのです。
バンクシー作品を窃盗した容疑で男2人が逮捕
バンクシーが新作『STOP WAR』を公開した当日、2人の男によって作品が描かれた道路標識が盗まれました。
複数の目撃者が新作を撮影している中、2人の男が「STOP(一時停止)」の道路標識ごとボルトカッターで撤去し、現場の交差点から持ち去りました。
20代と40代の男2人は、窃盗罪と器物損壊罪の疑いで23日と24日にそれぞれ逮捕され、1人は保釈されたようです。
その後、作品はどうなったかは不明です。
バンクシー新作『STOP WAR』から読み解くメッセージ
街に作品を公開してからは、多くを語らないバンクシー。
作品自体の運命は、市民に。作品の解釈は、見る人すべてに委ねています。
ただ、何かの活動を支援する時にはストリートではなく、キャンバスやTシャツに作品を描いて寄贈しています。
このようにアートによって社会を変えようとする政治的活動は、時にアーティビズムと呼ばれることもあります。
アート(芸術)とアクティビズム(積極行動主義)を組み合わせた造語で、アートを通して社会問題に声を上げる活動やキャンペーンのことを指します。
バンクシーが2023年12月に道路標識に描いた新作『STOP WAR』。
誰もが安心安全に暮らすための社会の共通認識、道路標識の『STOP』は、全ての人に「戦争停止」の呼びかけを促すメッセージなのではないでしょうか。
良記事😄感謝です
【2023年】バンクシー展 GMOデジタル美術館 東京・渋谷に行ってみた!#クチコミ https://t.co/3t15RteWKE
— 熊谷正寿【GMO】 (@m_kumagai) September 15, 2023
バンクシー作品を通じて、反戦について考える際はGMOインターネットグループ熊谷正寿代表にも取り上げていただいたこちらの記事をご覧の上、東京・渋谷のGMOデジタル美術館で作品を目の当たりにしてみてはいかがでしょうか。
バンクシー新作『STOP WAR』のよくある質問
バンクシー新作『STOP WAR』のよくある質問をまとめました。
バンクシーの最近の作品は?
2023年12月22日、バンクシーの新作が公式インスタグラムと公式サイトを通じて発表されました。「STOP(一時停止)」の道路標識に3機のドローン(軍用無人航空機)が描かれたバンクシーの新作は、2017年に発表した作品『Civilian Drone Strike(シビリアン・ドローン・ストライク)』と同じモチーフであり、無期限停戦と武器貿易批判を意味していると考えられます。
バンクシーの新作の場所は?
バンクシー新作『STOP WAR』が描かれた場所は、ロンドン南部ペッカムの「サウサンプトン・ウェイ」と「コマーシャル・ウェイ」の交差点、横断歩道の近くの道路標識でした。「STOP(一時停止)」の道路標識が設置された柱には、『Commercial Way(コマーシャル・ウェイ)』と通りの名前が書かれた看板もあります。火葬や埋葬を担う葬儀屋「W. Uden & Sons」がある交差点に設置されていました。
バンクシー新作の意味は?
バンクシー2023年の新作『STOP WAR』の意味は、戦争停止(無期限停戦)です。3機の軍用無人航空機へ「一時停止」の警告・義務を示す赤い道路標識は、爆撃や偵察を規制するメッセージがあると考えられます。そのことから、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突へ対する「無期限停戦」のメッセージと解釈することができます。
バンクシー作品をオールカラーで網羅した待望の日本語版、公式作品集「Wall and Piece」はこちら