バンクシーが、ニューヨークで開催した「Better Out Than In」の6日目。
2013年10月6日に公開したのが「Rebel Rocket Attack」という動画作品です。
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Rebel Rocket Attackの意味は、ロケット弾攻撃
バンクシーは「Better Out Than In」を開催中、毎日ウェブサイトで作品の発表とともに、写真と街の名前、メッセージ、音声ガイドを掲載していました。
ただ、2013年10月6日(日)は、写真と街の名前を投稿せず「Rebel Rocket Attack」というタイトルの動画とともに、このようなメッセージを掲載しました。
I’m not posting any pictures today. Not after this shocking footage has emerged…
直訳すると「今日は写真を投稿しません。この衝撃的な映像が出現した後だからではありません」となります。
ターバンを巻いた戦闘員が、地対空ミサイルを発射するところから動画が始まります。彼らのロケットは、灰色の煙とともに空に打ち上げられ、ターゲットに命中します。
「アッラーフ・アクバル!」と叫ぶ、3人の戦闘員たち。黒い煙を上げながら地面に向かって急降下する黒い物体。
一瞬映像が乱れますが、次に現れたのは撃ち落とされた、ディズニーキャラクター空飛ぶ象の「ダンボ」でした。
ダンボは弱々しく横たわり、煙を上げて燃えています。その上に乗り喜ぶ1人の戦闘員。
次のシーンでは小さな子供が現れ、死にかけているダンボに近づきます。状況を理解した様子の子供が、打ち落としたロケットランチャーの男のすねを蹴り上げたところで1分29秒の動画が終わります。
バンクシーのウェブサイトで公開された時点で、8万回再生を記録した「Rebel Rocket Attack」というリアルな映像。
この動画には、どのような意味・メッセージがあるのでしょうか。
ダンボは、第二次世界大戦の暗号
「ダンボ(DUMBO)」は、ディズニー制作のアニメーション長編映画作品で、その主人公の子象の名前です。
コウノトリが赤ちゃんを運んでくる世界で、サーカス団の象ジャンボの元に1匹の赤ちゃん象が届けらます。ついに自分の元にも届けられ喜ぶジャンボでしたが、この子は他のゾウと違うところがありました。耳がかなり大きかったのです。
ジャンボはダンボをとても可愛がりましたが、耳が大きいことで周りからいじめられ落ち込んでいたダンボ。見かねたネズミのサーカス団員ティモシーは、ダンボに芸を提案します。ダンボは早速試してみますが失敗し、テントを壊してしまいます。再び気を落としたダンボは、ふとした拍子にお酒の入った水桶に落ち、ピンクの象の幻覚を見ている間に気づいたら木の上で一晩過ごしていました。
そこでティモシーは大きな耳で飛べるのではと思いつき、カラスたちにも見守られるなか、ダンボは見事に空を飛びサーカスを成功させるのです。ダンボは花形ステージを飾る俳優になり、ティモシーは専属マネージャーとしてハリウッドと契約を交わすほどの大盛り上がりでサーカスは次の街へと出発します。
映画「ダンボ」は、日本では「空飛ぶゾウ ダンボ」という題名で1954年3月12日に公開されましたが、アメリカでは第二次世界大戦中の1941年10月23日に公開されました。
当時、アメリカ海軍の暗号に「ダンボ」という言葉が使われていました。また、遭難した水兵と飛行士を救助する作戦は「ダンボ作戦」と名付けられています。
ダンボ作戦について調べてみても、ほとんど情報は出てきません。ただ、「ダンボドロップ大作戦」というベトナム戦争中の実話を元にしたアメリカ映画が多くヒットします。
この映画の製作は、1995年のウォルト・ディズニー・ピクチャーズでした。
ダンボは、中東に派遣された戦闘機の比喩
バンクシーの動画ではダンボが撃ち落とされていますが、モチーフとなったのは戦闘機が撃墜される映像です。
あまりに衝撃的な映像なので目を背けたくなりますが、このような“本物”と間違えるプロパガンダ映像を作成することがいかに簡単かをバンクシーは示しています。
映像の中で、戦闘員が執拗に叫んでいた「アッラーフ・アクバル!」は、アッラーは最も偉大であることを意味するイスラム教の祈りの言葉です。
実際は「こんにちは」など一般的に使われる言葉なのですが、政治的な思想を植えつけるためのプロパガンダ映像で、武装集団やテロリストが叫ぶ攻撃的フレーズとして広まっています。
墜落したのが戦闘機ではなくダンボだったのは、イスラム過激派と戦うために中東に派遣されたアメリカ戦闘機の比喩として表現されています。
アメリカ軍の戦闘機を撃墜する映像は、イスラム過激派が作成したプロパガンダなのか。
それとも、アメリカがイスラム過激派の恐ろしさを私たちに植え付けるための自己演出だったのか。
ディズニー・スタジオは、プロパガンダ映像制作会社だった
ダンボはアメリカの文化的輸出の一例でもあり、第二次世界大戦中に戦争のプロパガンダ映画を制作していた、ディズニー・スタジオに関するメッセージとも解釈できます。
当時、ディズニー・スタジオの収入は、海外からが45%を占めていました。戦争の影響によってドイツ、イタリア、オーストリアなどの重要な市場は閉鎖され、イギリスやフランスからの送金も凍結されてしまい、ディズニーの資金は底をつきました。
アメリカの若者は徴兵され、ディズニーのおとぎ話に対する関心が薄れていくなか、ディズニーの若い社員も徴兵を受ける可能性があったのです。ウォルトは事業を続けるための核である社員を奪われないよう、アメリカ政府から依頼されたプロパガンダ映画の製作を始めたのです。
今日では、「夢と魔法のファンタジー」というイメージが強いですが、今のディズニーがあるのはそうした歴史があったからなのです。
ディズニーのダンボは、25枚限定のプリント作品に
バンクシー作品「ダンボ」は、めったに出回ることのない非常に珍しい版画です。
若者の無邪気さと、脆弱性に向かう急進的な動きの裏切りを象徴している暗いテーマのアートワークは、一般公開されることなく、2014年に少数の幸運なコレクター向けに25枚限定エディションで制作されました。
このシリーズはほとんどが白黒の版画ですが、ダンボのコーンイエローの帽子が手作業の水彩で仕上げられているため、特に人気があります。
制作年 | 2014年 |
技法 | スクリーンプリントに手描きの水彩画 |
サイズ | 56×76cm(22×30インチ) |
エディション(署名なし) | 15部 |
エディション(署名あり) | 10部 |
販売元 | ピクチャー・オン・ウォールズ |
ニューヨークのダンボ
ニューヨークのブルックリンには、Down Under the Manhattan Bridge Overpassの頭文字からDUMBOと呼ばれる地区があります。
倉庫を転用した建物には、独立系ブランドのブティック、高級レストラン、流行のカフェが並んでおり、ウォーターフロントにある煙草工場だったセント・アンズ・ウェアハウスは、今はパフォーマンスとギャラリーの中心となっています。
“Dumbo” の意味は「ノロマな人」「頭の回転が遅い人」です。
アメリカをダンボで表現したバンクシーの映像は、複雑なメッセージをニューヨークに拡散しました。
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