ペストコントロール(害虫駆除事務所)とは、バンクシー作品の真贋を判定し、認証する権限を与えられた唯一の公式機関です。
害虫駆除事務所は2009年に設立され、バンクシー自身が運営しています。それは、伝統的なギャラリーシステムに批判的なバンクシーのスタンスに基づいています。バンクシーの作品を認証する権限を持っている機関は他なく、真正性の作品証明書「COA(Certificate of Authentication)」の発行も担当しています。
ストリート作品の不当取引や偽物による詐欺を防止する役割のほかに、バンクシーへの唯一の連絡窓口としても機能しており、クレームを含む問い合わせにも対応しています。第三者によるバンクシービジネスの混乱や誤解を防ぎ、匿名性を守る事務処理機関としても役立っています。
正体不明で認知を広めたバンクシーですが、皮肉なことにその匿名性を利用した「非公認のバンクシー展」や「組織的な贋作ビジネス」など、不本意なバンクシービジネスが横行し「世界で最も偽物が多いアーティスト」とも言われています。
そんな誰もがバンクシーになりえる状況に終止符を打つべく設立したのが「ペストコントロール」と、同機関が発行する「作品証明書(COA)」なのです。
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害虫駆除事務所を設立した背景
人目を盗んでグラフィティを描き続ける自分自身を「ラット(rat)」と、社会の害獣にも重ねて表現するバンクシー。
無許可のグラフィティで犯罪行為を繰り返す社会の害獣が、自身の作品を認証するというのは、犯罪を認めることであり罪に問われかねません。そんな社会の害獣が「害虫駆除事務所」を設立することになったのは、偽物バンクシーという新たな社会の害獣が増殖した背景があります。
ペストコントロールを設立する以前
これまで、アート業界の流通は「アーティストは”作る人”」「ギャラリーは”売る人”」というそれぞれの役割分担がはっきりしていました。ギャラリーは作品の真正を担保した上で、マーケティングと集客力、ブランディングを使って作品を販売するし、アーティストは作品の制作に専念するというのが、業界の通例でした。
一方、バンクシーはグラフィティアーティストとして活動をスタートさせた頃、従来のギャラリーシステムから距離を置くようにして、POWという販売サイトやレコードショップ、書店、ブティックなどで自ら作品を販売していました。
POW(Pictures on Walls)はアーティストの作品を展示し、制作した出版社と印刷店として2003年に設立されました。 POWで販売されていた作品にはPOWスタンプが押され、ペストコントロールを設立する以前の作品を認証する際に役立っていました。さらに、POWで販売された作品は、購入歴を確認し、所有権を確認するPOWからの電子メールが添付されていました。
だが、ディーラー主導の独立した認証機関が多く設立され、鑑定士が認証する状況が続いていました。そんな中、偽物を本物と認証する機関も出てきたのです。本来、作品が本物であるかどうか信憑性を保証するはずの機関がまったく機能しておらず、偽物バンクシービジネスが加速していったのでした。
初めは沈黙を続けていたバンクシーでしたが、あまりにも偽物バンクシーが増えたことでやむを得ず「ペストコントロール」という唯一の公式認証機関を設立しました。
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認証条件から紐解く「東京ラット」の真贋
やむをえず設立した「ペストコントロール」ですが、バンクシーが認証する作品は、商業販売のために制作されたアート作品のみを認証するという条件があります。主に、シルクスクリーンプリントのエディションとオリジナルのアート作品です。
壁やドアなどストリートアート作品は、証明書を発行していません。また、ディスマランドやブリストル美術館でバンクシーがギフトとして制作したギフトプリントに対しても認証をしていません。ストリートでの作品を自分の作品と認めることは「自分の名前が入った供述書に署名してしまうような行為」であり、犯罪を認めることになります。
さらに、ストリートアートは、描かれた場所の背景も込みで鑑賞することに意味があり、作品だけを切り取りお金を稼いだり、個人的な所有物にしてしまう人のサポートはしたくないというのが、バンクシーの想いでもあります。あくまで、バンクシー自身が販売した作品に対しての認証機関です。
ただ、ストリート作品でも偽物の場合は、否定をするケースもあります。偽物が本物として拡まることは、冤罪が拡まることになり本意ではないからです。つまり、否定しない場合は、本物である可能性があると言うことになります。もちろん全ての偽物作品を否定する訳ではないので一概には言えませんが、小池百合子都知事が保護した「東京ラット」には返信がなかったという報道もあります。
購入・展示するならCOA(証明書)があるか確認が必須
ペストコントロールのCOAは、バンクシー作品を販売または購入しようとする際に不可欠です。多くのバイヤーやオークションハウスは、アートワークに証明書がない場合は販売を行いません。また、展覧会のキュレーターは証明書がない場合、展示をしません。
ペストコントロール公式サイトのFAQには、イギリスBBCの長寿番組「アンティーク・ロードショー」の映像と共に「アンティークロードショーは、かなりうまくまとめています」という文章が掲載されています。
イギリスのブライトンに住んでいた2004年頃に海辺の壁でバンクシー作品を見つけた男性が、BBC「アンティークロードショー」に登場しました。バンクシーが描いたとされる「鋼板上のネズミ」を持ってきた出品者に番組の美術商ルパート・マースは、このような問いかけをします。
バンクシーは、自分自身のブランドを非常に慎重に管理しています。作品の潜在的な所有者が本物の証明書を申請できるように「ペストコントロール」と呼ばれるウェブサイトを運営しているのはご存知ですか。
証明書を申請したが、拒否されました
ここでのメッセージは、グラフィティアートを見つけた場合は、自分の所有物にせず、そのままにして一般に公開することだと思います。
マースは、出品者に抗議をしたいのではないと言うスタンスを示した後「証明書がなければ、販売するのは非常に難しいです。その作品は20,000ポンドの価値があるかもしれません。しかし、証明書がなければ、無意味です。」と語り番組を締め括っています。
ペストコントロールへの連絡方法と認証プロセス
- ペストコントロールに連絡する唯一の方法は、Webサイト(pestcontroloffice.com)を介してです。
- サイトには、バンクシーの作品認証を希望される方専用ページを設定しています。
- 作品の詳細な情報や写真をオンラインフォームへ登録する必要があります。
- 申請書をアップロードするとペストコントロールよりEメールで返信があります。
- このプロセスにより、バンクシーによる本物の商業芸術作品があるかどうかが判断されます。
- 作業が確認された場合、ペストコントロールはLTD認証証明書を発行します。
- このサービスには費用が発生いたします。スクリーン印刷の場合は50ポンド、オリジナルのアートワークの場合は100ポンドです。
購入前に必ず利用したい「Keep it real」サービス
バンクシー作品を購入する場合、ペストコントロールに作品の詳細を提出することができます。ペストコントロールはデータベースと照合して、作品が本物であることを確認してくれます。ただし、すでに作品にCOAがある場合にのみ利用できるサービスです。COAがない場合、所有者は認証リクエストを送信する必要があります。
このサービスは、買い手と売り手の両方を関与させ、保護する複雑なプロセスです。
ペストコントロールが役立った例「バンクシー製品」
バンクシーはアートを制作しており、商品を扱っていません。商品は特定の場所で機能するものと定義され、作品の1つをフォトキャンバスや、トイレットペーパーホルダーに印刷しています。「バンクシー製品」のように見えるものは、ほぼ間違いなく偽物です。バンクシーが製品を作る場合は、 GDPによって販売されたアイデアの実行です。
なので、ノルウェーのある変わり者がワインの報酬を得るために合法的に名前を「バンクシー」に変更したことは確かに非常に面白いですが、そのような製品は懐疑的に扱う必要があります。「酒に酔えば、人は本音や欲望を表に出す」という諺を聞いたことがありますか?「酒の中に真実がある」と言う意味ですが、ここでは適用されません。
画像の著作権と使用
バンクシーの画像は、非営利目的や個人的な娯楽のために誰でも自由に使用できます。
カーテンに合った色で印刷し、おばあちゃんのカードを作り、自分の宿題として提出してください。
ただし、バンクシーもPest Control Officeも、画像をサードパーティにライセンス供与していません。バンクシーの画像を商業目的で使用することはできません。たとえば、商品を発売したり、人々を騙してバンクシーが制作したものや承認したものと思わせるようなことはしてはいけません。
「著作権は敗者のためのもの」
グラフィティ出身のアーティストといえばバスキアやキース・ヘリングがいますが、 匿名のまま世界的に有名になり、美術館やアート界から慎重に距離をとりつつ、 約20年以上もストリートで作品を発表し続けているアーティストは他に例がありません。
バンクシーが偽物に対して法的な手段を取らないのは、自らの身元を明確にしない「匿名性」を維持するためです。
copyright is for losers(著作権は敗者のためのもの)
皮肉にも、著作権を否定するバンクシーは、著作権を乱用されています。「匿名」をいいことに、本人が同意していない非公式の展覧会が世界各地で開催され、作品を無断転用した商品販売やフリーライドした贋作ビジネスも横行しており、「世界一ぼられたアーティスト」といっても過言ではない状況があります。
違法と合法の境界線をいくバンクシーの創作活動とはいえ、展覧会に行ったりバンクシー作品を購入する際は、このような状況も知っておくことで、アーティストの作品やキャリア、コレクター、現代アート市場が守られるのではないだろうか。
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