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バンクシー『愛はごみ箱の中に/Love is in the Bin』意味とは?なぜ?シュレッダー事件の価値を作品解説

「愛はゴミ箱の中に」は、英語で「Love is in the Bin」です。

2018年10月5日にバンクシーの代表作「Girl with Balloon(風船と少女)」が、オークション中にシュレッダー付きの額縁によって裁断された介入芸術作品の1つです。

下半分が裁断された「風船と少女」は、バンクシー公式の認証機関「Pest Control Office」によって、バンクシーの介入が認められ「愛はゴミ箱のなかに」に改題されました。

オークション中に新たに生まれ変わった作品は「シュレッダー事件」などとも呼ばれ、破壊ではなく創造された作品として、世界の注目を集めました。

予想外の形で生まれたパフォーマンスアートは、一瞬にして芸術史に残る作品となった。

オークションを主催したサザビーズは、このように発表しました。

バンクシーは「愛はゴミ箱の中に」で、どんなメッセージを伝えたかったのでしょうか。

愛はゴミ箱の中にの価値は?いくら?

落札後に裁断された作品は”修復不可能”であり、通常であれば作品としての価値は下がります。しかし、史上初オークション中に裁断された作品の価値は、さらに高くなりました。

シュレッダー事件当時、落札したのはサザビーズの長年の顧客で、欧州の女性コレクターでした。

ビリビリに裁断された「Girl with Balloon(風船と少女)」を見た時は衝撃を受けたそうですが、「あの日に生み出された新作」を落札価格と同じ104万2,000ポンド(約1億5,800万円)で購入することが決まり、次のように答えています。

落札が決まった直後に作品が裁断された時、最初はすごくショックだった。でも、美術史に残る作品を手にすることにだんだんと気づき始めたわ。

オークション数日後には、サザビーズのギャラリーにて2日間限定で一般公開されました。

2019年2月5日から3月3日までドイツ南部のバーデン=バーデンにある「フリーダー・ブルダ美術館」で展示され、その後もいくつかの美術館で展示されたのち、女性コレクターのもとで保管されていました。

そして、2021年10月14日に再びオークションに現れた「愛はゴミ箱の中に」は、13人の10分間にも及ぶ競売の結果、事前予想をはるかに上回る値段で落札されました。

事前の落札予想価格では400万~600万ポンド(約6億800万~約9億1,300万円)とされていましたが、1,858万ポンド(約28億8,000万円)で落札され、バンクシー作品史上最高の価格となりました。

それまでは、2021年3月に落札された「Game Changer」1,675万ポンド(約26億円)が、シュレッダーにかけられた時の「風船と少女」104万2,000ポンド(約1億5,800万)を超えて、最高額を記録していました。

3年で約18倍の価値がついた「愛はゴミ箱の中に」は、どのようにして裁断されたのでしょうか。

どうやって裁断したのか?シュレッダーは嘘?

 

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落札直後に警報音が「ピー、ピー」鳴り響き、額縁内部に仕掛けられた機械式シュレッダーによって下半分が裁断され完成した「愛はゴミ箱の中に(Love is in the Bin)」。

バンクシーはオークション翌日に、自身の公式インスタグラムで、作品が裁断される瞬間の写真とともに「Going, going, gone…」というメッセージを投稿しました。

しかし、2018年10月5日以降、史上初オークション中に裁断された作品を巡り、様々なメディアで「サザビーズの共謀説」や「裁断フェイク説」が噂されました。

シュレッダー事件は、サザビーズとの共謀説

サザビーズ

サザビーズとの共謀説が浮上したは、出品する前に作品を確認しているはずのサザビーズが、額縁に機械式シュレッダーが仕掛けられていることに気づかなかったはずがないというのが、初めの疑惑でした。

どうやら私たちは『バンクシーされた』ようだ

サザビーズは、事前にシュレッダーによる裁断を知っていたのかなどは明らかにせず、このような声明のみを発表しました。

本当は裁断されてない?裁断フェイク説

もう1つの疑惑が、裁断フェイク説です。

オークション会場内で裁断された絵画は、少女の頭が伸びて見えると言われていました。額縁内と外でズレが生じているのは、1枚は額縁の中に綺麗な状態であり、もう1枚はあらかじめ下半分を裁断したものを出す、マジックの古典的な手法ではないかという説です。

そして、バンクシーが10月7日に公開した公式YouTubeの動画が、裁断フェイク説をさらに加速させました。

動画では「オークションにかけられた場合に備えて」という言葉と共に、シュレッダーが埋め込まれた額縁の製造映像が収録されています。

動画の7秒のところには、裁断用の刃が横向きに設計されている様子が映っており、絵画を縦に裁断することができないのではないかという疑惑が浮上しました。

また、2つのローラーが搭載されていたことが、絵画を2枚仕組んでいた説を濃いものにしました。

数年前に内密にシュレッダーを仕込んでいた

バンクシーは動画の冒頭で、シュレッダーは事前に仕込んでいたものだと種明かししていました。しかしこれも、数年前に仕込んだバッテリーが作動するのかなど様々な疑惑を呼びました。

バンクシーは共謀説や裁断フェイク説を否定

 

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「愛はゴミ箱の中に」にまつわる「サザビーズの共謀説」や「裁断フェイク説」について、10月18日バンクシーは公式インスタグラムで次のように否定しました。

本当は裁断していないという人がいるが、実際に裁断している。

サザビーズは知ってたという人がいるが、実際は関わっていない。

そして、公式サイトの「Shredding the Girl and Balloon – The Director’s Cut(風船と少女を裁断する ディレクターズ・カット)」と題された、約3分間の動画へのリンクを紹介しました。

ディレクターズ・カットでは、額縁にシュレッダーを内蔵させる舞台裏を、以前の動画よりも細かく映しています。

さらには、会場に潜入していたことを示唆するオークション開始前のお披露目会の様子や、落札及びシュレッダー作動装置のボタンを押す瞬間まで収められています。

リハーサルでは、毎回成功していた…

この動画の最後には、本来は作品全体が裁断されるはずだったことを示唆する「少女と風船」裁断のリハーサル動画を収録しています。

「サザビーズとの共謀説」も「裁断フェイク説」も否定したバンクシーですが、元代理人のスティーブ・ラザリデスもこの憶測について次のように話しています。

バンクシーと一緒に12年仕事をしたけど、オークションハウスのような機関と組んで、あんなパフォーマンスをするなんて考えられない。彼の哲学に反している。

愛はゴミ箱の中にの意味は、アートの価値を再定義

バンクシーはこれまで作品を通して、数々の問題提起をしてきました。

資本主義については、バンクシーが長年批判の対象にしてきたテーマです。アートを商業化する美術オークションも批判の対象であり「アートはお金持ちだけのものではない」「アートはお金儲けの道具ではない」というのがバンクシーの一貫したメッセージでもあります。

2007年には「Morons」という作品を発表しています。この作品の右側の額縁の中には、このようなメッセージが書かれています。

こんな、糞な作品を高額で落札する、お前らみたいな愚か者が信じられない。

バンクシーがストリートを主戦場とするのには「アートはみんなのモノ」という思想があります。

ストリートに書くのは、みんなに無料で見てもらうため。

落札後の作品が裁断され始めたとき、アートコレクターでいっぱいの会場は恐怖と混乱が渦巻き、そしてその様子は瞬く間に世界中に広まっていきました。

投稿した動画に「どんな創造活動も、はじめは破壊活動からはじまる」というピカソの名言を添えていることからも、バンクシーはオークションという場で、何かを創造しようとしてアートを破壊したことがわかります。

限られた人だけでアートの価値を決めるオークションでの破壊活動は、アートの価値について再定義しようとしたのではないかと考えます。

元々、ストリートアートを拠点とするバンクシーの創造活動は、消されたり塗りつぶされたり盗まれるなど”形あるモノ”として残ることは、ほとんどない運命にあります。

そんな作品を自ら破壊しようとした作品は、幸か不幸かバンクシーが意図したように全てではなく、下半分だけの裁断で停止して”形あるモノ”として残りました。

“形あるモノ”となった作品の価値は、議論の余地なくさらに高騰しました。オークション会場で完成するはずだった創造活動は失敗に終わり、バンクシーは結局、資本主義に取り込まれてしまいました。

もし、リハーサル動画のように作品を破壊できていたら、アートの価値はどうなっていたのでしょうか。落札者はそのまま購入していたのでしょうか。

その議論は、オークション会場の外にも広がり、”形あるモノ”から、誰も所有できない”形ないコト”として「みんなのモノ」になっていたかもしれません。

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