バンクシーは2013年10月25日(金)ニューヨークのバワリーに、新作『グリンリーパー/Grim Reaper』を残したことを公式インスタグラムで発表しました。
バンクシーは、ニューヨークで開催した『Better Out Than In』25日目の午前中「今日の作品は、午後5時に開始される」と、インスタグラムに投稿しました。多くのファンが新作を「Waiting in Vain(待ちぼうけ)」というような中、午後6時頃になって公開されたのが、バンパーカーに乗った『グリンリーパー/Grim Reaper』です。
グリンリーパー/Grim Reaperとは、大鎌を持った死神を意味します。
こんにちは。バンクシー非公式マガジンBANDAL編集部です。
バンクシー非公式マガジンBANDALでは、バンクシーがなぜ注目されるのか。どうやって有名になったのかなど。バンクシー作品の意味を解説したり、その魅力、メッセージ性の解釈、現存する場所などを発信しています。
本記事では、バンクシーのバンパーカーに乗った死神『グリンリーパー/Grim Reaper』の意味について、作品解説しています。ぜひ最後までご覧ください。
グリンリーパー/Grim Reaperの意味は死神
バンクシーがニューヨークで開催した『Better Out Than In』25日目は、バワリー地区の大きな檻の中に登場しました。
この作品名は『グリンリーパー/Grim Reaper』または『リーパー/Reaper』と呼ばれており、死神との遭遇を意味しています。日本語では「死神」と訳されますが、正確には”神”ではないため、大鎌を持つ骸骨の姿で表された「死」というニュアンスが適切です。
動画では、大鎌を持った死がバンパーカーに乗り、火花を放ちながらグルグル回転しています。カラフルなレーザー照明と臨場感を増すスモッグ、アコーディオン奏者の生演奏の演出は、その奇妙さを増しています。
バンクシーは、この狂った死にどんなメッセージを込めたのでしょうか。
グリンリーパー/Grim Reaperのメッセージ
ニューヨークでの「Better Out Than In」を開催中、毎日ウェブサイトで作品の発表とともに、写真と街の名前、メッセージ、音声ガイドが掲載されました。
25日目は、街の名前「Bowery」とともに、このような謎のメッセージが掲載されました。
Tonight through Sunday, dusk until midnight.
直訳すると、「今夜から日曜日まで、夕暮れから真夜中まで」と、なります。作品が展示される期間が、示唆されています。
そして、音声ガイドでは「芸術の役割は、私たちの死を呼び起こすことだ」という説明とともに、詩「インビクタス」を引用して今を生きることの大切さについて自嘲的な解釈を提示しています。
『Reaper』の、音声ガイド全文です。
Good evening. You’re at Houston Street on the Bowery.
Welcome to the fair — which life isn’t.
Please be aware no flash photography is permitted.
You know, just keep it nice and simple.こんばんは。ここは、バウリー地域のヒューストン・ストリートです。公平へようこそ。人生はそうではありません。フラッシュ撮影はご遠慮ください。素晴らしくシンプルでいてください。
This is the dance of death, in which the harvester of souls has been reproduced as a accurately as accounts, and the artist’s talents, will allow.This sculpture perfectly represents death in that it’s a bit … random.
この作品は「死のダンス」です。魂の収穫者を、才能が許す限り正確に再現しています。そして、死を完全に表現しています。少し…ランダム(いつ訪れるかわからない)という点でね。
The artist had said that he wanted to make a piece of art that would last forever, about the importance of living in the moment.
アーティストは、今を生きることの大切さについて、永遠に残る作品を作りたいと言っていました。
Let us pause for a minute and step back. [Car honks] Not that far! Jesus.
少し立ち止まって、一歩下がってみましょう。 (車のクラクション)そんなに遠くない!おお、神よ
Consider, if you will, the fragility of existence, the thin slice of life afforded to each of us to contribute something to the story of human life on Earth.
もしよければ、地球上の人類史に何か貢献するために与えられた、私たち一人ひとりの生命の薄いスライス、もろさについて考えてみてください。
Why are we here? What are we doing? Why the accordion music?
Did you know that statistically, one of you present will die tonight?
Oh wait — that’s, “Statistically, one of your phones will die tonight.”
Still pretty tragic, though.私達、どうしてここに?私たちは何をしていますか?なぜ、アコーディオン音楽?統計的に、ここにいる人の内1人が、今夜死ぬことを知っていましたか?ちょっと待ってください。それは「統計的に、携帯電話の1つが今夜死ぬでしょう」ということです。それでもかなり悲劇的ですが。
It is often said that the role of art is to remind us of our mortality.
芸術の役割は、私たちの死期を思い出させることだとよく言われます。
Brainsky’s take on that seems to be mounting an art show that goes on for so long, we all wish we were dead already. Let us pause to consider these words from the great poet Wikipedia, who once said,
ブレインスキーの見解では、長い間続くマウントされたアートショーに対して「私たちは皆、とっくの昔に死んでいる」とみなされています。偉大な詩人ウィキペディアの次の言葉を、見てみましょう。
“Beyond this place of wrath and tears,
looms but the horror of the shade,
and yet the menace of the years finds,
and shall find me, unafraid.
It matter not how straight the gate,
how charged with punishment this world.I am the master of my fate.
I am the captain of my soul.”「激しい怒りと涙の彼方に恐ろしい死が浮かび上がる。だが、長きにわたる脅しを受けてなお、私は何ひとつ恐れはしない。門がいかに狭かろうと。いかなる罰に苦しめられようと。
私が我が運命の支配者。私が我が魂の指揮官なのだ」
Okay, enough with the accordion music!
Who does this guy think he is, Arcade Fire?さて、アコーディオン音楽は、もういいや!
この男が誰だと思うかな、アーケイド・ファイア?
ネルソン・マンデラを支えた詩「インビクタス」
ネルソン・マンデラ大統領が、27年間の投獄中に心の支えにしていた詩「インビクタス」。ラテン語で「不屈」を意味するこの詩を書いたのは、イギリス詩人「ウィリアム・アーネスト・ヘンリー」です。
すべての神に感謝しよう。不屈の魂を授けてくれたことを、運命に打ちのめされ、血を流しても、決して屈伏はしない。
我が運命を決めるのは我なり。我が魂を征するのは我なり。
50年にもおよぶ南アフリカの人種隔離政策「アパルトヘイト」を先導したとして国家反逆罪に問われ、終身刑で投獄されたネルソン・マンデラは、獄中でこの言葉を唱えつづけました。そして27年間の投獄の後、黒人初の南アフリカ大統領に就任します。
2013年12月、93歳でこの世を去ったマンデラは「生きることの栄光は失敗しないことではなく、失敗するたび起き上がることだ」と言い遺しました。なにをしなくても、時間はあっという間に過ぎていきます。人生は私たちが人生とは何かを知る前に、もう半分過ぎています。
バンクシーは作品を通して、人生には必ず終わりがあることや、運命を決めるのは自分自身であることを思い出させました。
ブルーオイスターカルト「Don’t Fear The Reaper」
アコーディオン奏者と一緒に流れたBGMは、ブルー・オイスター・カルトの「Don’t Fear The Reaper(死神を怖がるな)」です。
この曲は、永遠の愛を歌ったラブ・ソングです。この曲で歌われている愛は、愛する人という物理的存在を超越しています。ただ、そのタイトルや、歌詞で「ロミオとジュリエットはもういない」と歌われることなどから、自殺を誘発していると解釈されました。
そして、運命の人は、死神だったのではないかと言われています。
アーケイド・ファイアが死神
バンクシーが公開した音声ガイドの最後は、このように締めくくられました。
Who does this guy think he is, Arcade Fire?
この男が誰だと思うかな、アーケイド・ファイア?
死神が誰かを聞いた後に出した名前は、ロックバンド「アーケイド・ファイア」でした。
中東における民主主義の変革など、世界が変わることを信じて、2009年のオバマ大統領就任パーティーで、歓喜のライブをしたアーケイド・ファイアの「ウィン・バトラー」。
しかし、オバマ政権が目指した中東和平は、困難を極めます。イスラエルとパレスチナの状況はさらに悪化し、またしても爆弾テロが起きてしまいます。
ウィン・バトラーは、2010年8月にリリースした「ザ・サバーブス」で、このように歌っています。
最初の爆弾が落ちた頃には、僕らはすっかり退屈していたんだ
時々、そんな事が信じられなくなって、僕はまた、沸き上がる感情をやり過ごす
本気で世界が変わることを信じていた後にきた虚脱感は、相当なものだったに違いありません。
日本のフェスで踊る死神を登場させるなど、昔から死について歌にしてきた「アーケイド・ファイア」は、バンクシーの作品が公開された3日後の28日にアルバム「リフレクター」をリリースしました。
このアルバムは、世界中のダンス・サウンドを集め「祭り」を再現しています。”死”を歌にしてきたバンドにとって、葬式はカーニヴァルです。
死からはじまるダンス(Dance of Death)は、バンクシーの作品と共通したテーマです。
グリンリーパー/Grim Reaper@ニューヨークの場所
バンクシー・ダズ・ニューヨークの25日目は、バワリー地区のエリザベス通りとヒューストン通りに登場しました。
この場所はもともと、骨董品屋「ビリーズ・アンティークス・アンド・プロップス」があった場所で、金網フェンスで囲われた更地になっていました。かつて、店を所有していたビリー・リロイは「バンクシーの作品は複雑であるが、私自身は以前にその空間で死を考えた」と語りました。
そして、許可は取られているのか土地を所有するゴールドマン・プロパティーズに電話しましたが、この日は土曜日で応答されないままでした。
その後、土地には、かつての骨董品屋のテントが入った棺桶だけが、数カ月間残りました。